若い力が地方を変える

今朝、新聞を手に取ると、「地方圏の住宅地上昇」の大見出しが目に入りました。国土交通省によって発表された2019年の公示地価が、各紙で報じられています。上昇の背景には、日本を訪れる観光客の増加や駅前の商業施設の再開発などがあるようです。

しかし、別刷りでデータを子細にみていくと、歓迎することばかりでないことが分かります。札幌、仙台、広島、福岡といった中枢都市以外の地域や、岡山などの豪雨被災地ではマイナスも大きく、格差が見られます。また、海外からの訪問客の増加などは、一過性のものかもしれません。地方を活性化させるには多くの住民を巻き込み、腰を据えた取り組みが欠かせないでしょう。

近年、ユニークな移住策や起業支援の取り組みが進んでいます。興味深かったのが、山形大学の取り組みです。「山形大学EDGE-NEXT」は、学生による起業を促す活動です。文部科学省が主催する次世代アントレプレナー育成事業の一環とのこと。起業家を継続的に生み出す仕組みを地域ぐるみで築き、卒業後も若者が地元に残って事業に取り組んでもらえる環境づくりを目指しています。

さっそく山形大学の国際事業化研究センターに電話で聞いてみました。きっかけは、学生から「もっと山形の魅力を発信していきたい」と声が上がったことだったそうです。「講義を聞いて学ぶことにとどまらず、『実装』するところまで持っていくことが大きな特色」と教えていただきました。ちなみに実装というのは、実際に使いこなすようなレベルにまで到達させることです。

参加チームのアイデアをもとに、地元の企業経営者や金融機関が助言役として加わり、行政や他大学とも協働しながら、一年にわたって事業化を進めていきます。有望な事業のアイデアは立ち上げまで伴走形式で、継続的に支援が続けられます。すでに学内には、学生が気軽に使え、社会で活躍されている人との交流の場にもなる、コワーキングオフィスも設置されました。

筆者は和歌山県で生まれ育ちましたが、まわりで起業されている方は少なく、若手をサポートするだけの余裕のある企業も多くありません。また、新たなものが次々と生み出されていくのが当たり前の東京に比べると、保守的な側面も感じます。一概には言えないかもしれませんが、地方では起業を生み出せる「土壌」が充実していると言えず、ハードルの高さを感じます。

しかし、この取り組みでは、資金面の支援に加え、地域と密にかかわりながら活動を進められるため、事業リスクを和らげられるでしょう。起業に意欲を持つ若者の情熱を地域の実情を踏まえながら実現できる、素敵な企画だと思います。

これからより一層深刻化していく少子高齢化。愛するふるさとや縁のあった地方を盛り上げたい。そう願う同世代の熱意と活躍に期待しています。

 

参考記事 各紙「公示価格 上昇」関連面

19日付 夕刊 13版 1面 「地域ぐるみで企業家育成 山形大 スタートアップ生む企業設立」

 

私事ですが、今日の投稿をもって「あらたにす」の活動を卒業させていただきます。3年間、言葉と向き合いながら95本の投稿文を書かせてもらいました。新聞を読み、学生メンバーと議論を交わして、たくさんのことを学ぶことができました。また、活動を通じて得た多くの出会いは本当にかけがえのないものです。活動を支えてくださった事務局の皆さま、学生スタッフの皆さん、取材に協力していただいた方々、そして読者の皆様に心から感謝申し上げます。これからも、「あらたにす」を温かく見守ってくださると嬉しいです。本当にありがとうございました。