【特集】廃炉支える技術とは 私が見た楢葉町・富岡町

みんながふらっと立ち寄れる場づくり
さて、最先端の研究施設から離れて、人々の暮らしの場へ。JR常磐線竜田駅から徒歩10分ほどの場所にある「ここなら笑店街」には、スーパーやカフェ、クリーニング店など10店舗が入居している。避難指示が解除された時から楢葉町での生活を支えてきた仮設店舗が、昨年6月に新装オープンさせたものだ。その向かいには、昨年7月末に誕生した「みんなの交流館ならはCANvas」がある。設計にあたって全9回のワークショップを開き、町民の思いを盛り込んだ。

楢葉町では、事故発生の翌日に全町避難を開始。県内ではいわき市への避難者がもっとも多かった。13年末には町内の住宅県の除染が完了し、15年9月5日にすべての避難指示が解除された。町に戻った住民の居住率は、昨年9月30日時点で5割を超えた。

ならはCANvasのところどころに木が使われている。2階のトイレの前の壁には、黒っぽい木の板が飾られていた。施設を運営する一般社団法人「ならはみらい」の平山将士さんによれば、被災した家屋の廃材だそうだ。職員は地元の人だけでなく、「もともとボランティアなどで地域の人とつながりができていた人が、今年は3人入った」という。

ならはCANvas1階。ガラス張りの大きな窓と吹き抜けが開放感あふれるスペース。Wi-Fiあり、充電ができるワーキングスペースありと旅行者にもうれしい設備が整う

楢葉町民と立命館大学の学生が一緒に作る「ならはかわら版」。16年9月に発行開始

交流館だよりを読むと、今月もベビースキンケア初級講座や映画上映会など幅広い種類のイベントが開催されるようだ。

富岡町では、交流館のパンフレットコーナーに置かれていた「ふたばぐるぐるMAP」を手に歩いてみた。JR富岡駅前には17年にオープンした「富岡ホテル」や真新しいマンションが建ち並ぶ。通りかかった富岡町小中学校には18年時点で17人の生徒が通っている。一方で営業していない銀行やガソリンスタンドもいくつか見かけた。

この地図に載っていた「ふたばいんふぉ」は、双葉郡の総合インフォメーションセンターとして、8町村の現状についてパネルを使って分かり易く説明していた。物販コーナーがあったので、葛尾村で採れた米でつくられた甘酒「ノマッシェ」をおみやげに買った。会議室やコワーキングスペースとして使えるスペースがあり、フリーWi-Fiが使え、スマートフォンの充電もできる。カフェも併設されている。

「ふたばいんふぉ」にて。垂れ幕に書かれた「富岡は負けん」の文字が力強い

8町村の情報が充実

富岡町では17年4月に全町避難が帰還困難区域を除いて解除された。最近のデータによれば、住民票のある約1万3千人のうち7割が居住できるようになったが、住むのは877人にとどまる。

ふたばいんふぉは、2015年夏に立ち上がった双葉8町村の住民によるコミュニティ「双葉郡未来会議」の中から生まれた。代表の平山勉さんは、「(事故があって)みんなばらばらになってしまったからこそ必要だと思った」と未来会議の意義について語る。被災地域だけでなく、行政レベルでも民間レベルでも「広域連携」が注目されている。住民の帰還状況などによって町村間で復興に差が出ている状況では、なおさらだ。

富岡~浪江間はいまも電車が止まっているため、代行バスに乗って町をあとにした。

昨夜、目にしたNHKスペシャル「廃炉への道2019 核燃料デブリとの闘いが始まった」では、地元漁協の方が「廃炉と住民の暮らし、どちらに偏ってもいけない」と話していた。ほかにも、汚染水や汚染土の処理、福島県産品の風評被害などたくさんの課題がある。

原発事故を境に、原子力分野をめざす学生は減少傾向にあるとされている。電源構成に占める原子力の割合を見直すとしても、今ある原発を安全に動かしていくための人材は必要だ。数十年かかる廃炉と並行して、すぐれた研究者や技術者の育成が欠かせないということにも気づかされる小旅行だった。

参考記事:17日付 日本経済新聞朝刊(秋田11版)1面(総合)「再生エネを共同販売 東電・イーレックスが新会社」
同日付 31面(社会)「(復興の実像:3)福島避難者、市町村集計は県の6倍 帰還の意思 広く把握」
HOOK「双葉郡8町村の繋がりを大切に。ゼロからのまちづくりに挑戦中」平山勉さんインタビュー
2月14日 NHK「福島第一原発2号機『燃料デブリ』接触調査」https://www.nhk.or.jp/d-navi/science/special/special_190214/

関連情報:JAEA福島研究開発部門ホームページ
あらたにす「原発への国民理解 一筋縄ではいかない」