【特集】廃炉支える技術とは 私が見た楢葉町・富岡町

2051年頃を目標に廃炉の完了をめざす東京電力福島第一原発(通称1F)。先月13日には2号機で、アームのついた装置を遠隔操作して燃料デブリとみられる堆積物に直接触れる調査が初めて行われた。燃料デブリとは、冷却ができなくなって溶けた燃料と、原子炉の構造物などが混じり合って固まったものだ。周辺の放射線量は極めて高くなっていた。動かせたものとそうでないものがあり、具体的な取り出し方が今後検討される。

8年経っても取り出し方さえ決まっていないのか。思わず暗い気持ちになったが、先日福島の研究施設を見学してみて、廃炉に関わってきた現場の人々にとっては大きな一歩であったことを思い知らされた。

廃炉作業に欠かせない遠隔技術
今月14日、私は福島県楢葉町にある「楢葉遠隔技術開発センター」にいた。ここはJAEA(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)の福島地域の研究開発施設の一つだ。主に、1Fの廃炉作業に使う遠隔操作機器の開発と実証実験が進められており、外部からの見学も受け入れている。センター自体は試験方法やシミュレーション技術の開発と設計を行い、研究機関や民間企業に向けて試験のための環境を整えている。幅60m、奥行80mで高さ40mの試験棟では、この日も機器の動作を確かめる利用者の姿が見られた。

試験棟は実物大の試験体を設置した実規模実証試験エリアと、水中ロボットの試験用水槽や1F内の階段を模した「モックアップ階段」等を備えた要素試験エリアに分かれている。

研究管理棟ではVR(バーチャルリアリティ)システムを体験した。1Fの原子炉建屋内の状況を再現し、現場にいるような感覚で作業計画の検討や作業者の訓練ができる。スクリーンの前に立って特殊なメガネをかけ、格納容器の中の様子などを見ることができた。手すりのサビや壊れている箇所などもあるのがリアルだった。画面の右上隅には時間の経過とあわせて放射線量が表示されていた。担当者の方の操作で建物内を進んでいると、白いキューブが現れた。これは実際に建屋内にあるものではなく、通路の幅や高さを確かめるため用意した架空のものだ。VR内で自由に動かすことができる。作業員に危険がないように、キューブが通路周りの配管や壁にぶつかると「ブー」という音で知らせてくれるのだ。

私が見た映像は、3Dレーザースキャナーで原子炉建屋内を計測して集めた億単位のデータを合成し、それをVRシステムに取り込んでつくられたものだ。

VRメガネのレンズの中に映っているのはシミュレータ映像で、撮影用にと用意してくれた。見学者は原子炉建屋内の環境を再現したデータを体験できる

同センター技術広報の板橋靖さんによれば、現在は月に3~4団体が利用しているという。利用件数は16年度の38件が翌年度には64件と増えたが、首都圏や地元での認知度はそこまで高くないと感じているそうだ。試験用施設としての稼働をもっと増やしていきたいと話す。

富岡町の「廃炉国際共同研究センター」も訪れた。国内外から30人ほどが集まり、放射性廃棄物処理や遠隔技術など分野ごとに分かれて研究を進めている。6部屋あるラボをドア越しにのぞくと、若手の研究者の姿が多く見られた。

富岡町にある廃炉国際共同研究センター

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