障がい者にとってのパラリンピック

勇気、強い意志、インスピレーション、公平

パラリンピックの象徴として重視されている四つの価値観です。スポーツを通じ、障がいのある人にとってよりよい共生社会を実現することを理念としています。東京大会が近づき、パラスポーツも日に日に身近なものになってきました。

筆者は先日、代々木公園で開催されているブラインドマラソンの体験会に参加しました。多くの視覚障がい者は、伴走者と輪にしたロープを握り合って走り、伴走者が進路の状況やタイムなどを伝えます。

実際に目隠しをして歩いてみると、少しの段差や地面の変化にも恐怖を感じました。その後、伴走に挑戦しました。道路の状況や進路を的確に素早く伝えることは予想以上に難しく、「今、段差があったよ」と逆に教えてもらうことも。全体の状況を俯瞰して観察することや、コミュニケーションを密に取って相手に理解してもらうことの大切さを実感しました。

レース時だけでなくジョギング時にも伴走者が欠かせません。一週間に10人以上の方とともに練習を積んでいる選手もいるそうです。パラリンピアンとして世界で活躍されているランナーの一人は、「チーム戦として多くの方とかかわりあいながら、一つの目標に向かって戦えることが魅力」と教えてくれました。個人種目であるマラソンとは違う特色があり、パラ競技の奥の深さを知ることができました。

一方で、今日の紙面には、気になるデータが紹介されていました。史上最多の270万枚のチケットが完売したロンドンパラのあと、英政府による一般市民への調査で81%が「大会が障がい者の評価にポジティブな影響を与えた」と回答しました。ところが、英国の民間団体が障がい者に尋ねたところ、59%が「パラリンピックの1年後も健常者の障がい者への態度は変化がない」と答えたと報じています。

「パラリンピックは才能に恵まれた人たちの特別な祭典で、一般の障がい者にとって距離が遠くなってしまっている」。パラ大会が社会に与えた影響を調べた一般社団法人「コ・イノベーション研究所」代表理事の橋本大佑氏は指摘します。また、パラ種目は現在540ほどあるものの、身体的・視覚的障がいを中心としたものになっているため、障がいが持つ多様性を受け止めることができず、本質的な理解につながっていないという見方もできそうです。

今後は、パラスポーツの裾野を広げていくとともに、種目を拡大し、さらには健常者が参加可能な競技で混成チームを作るといった取り組みも検討していく必要があると感じます。同時に、競技としてだけではなく、趣味や遊びとしてより身近なところに健常者と障がい者が日々交流しながらスポーツを楽しめる機会、環境を整備していくことが、理解を深める一歩になるのではないでしょうか。

参考記事 14日付 朝日新聞 12版 3面 「聖火は照らす TOKYO2020 第2部 中 パラ大会 、障がい者置き去り?」

日本パラリンピック委員会HP(http://www.jsad.or.jp/paralympic/what/index.html