まちの主人公は誰だ。

「私の大好きな街を潰さないでほしい」

今日の朝刊に切実な叫びが掲載されていた。その声の主は東京・葛飾区に住む23歳の男性だった。同区の京成電鉄押上線立石駅周辺で、タワーマンションなどを建設する再開発計画が持ち上がっているという。駅前には商店街や昔ながらの飲食店が立ち並ぶ「呑んべ横丁」がある。人と人との距離感が近く、独特の温かさを持つ立石の街を、男性は愛していた。

そこに持ち上がったのが再開発計画だった。

調べてみると、確かに再開発事業が着々と進んでいるようである。「立石駅北口地区市街地再開発事業」。対象は立石駅の北口一帯で、新たに36階と13階建ての複合高層ビルを建てる計画だ。着工は2019年度とのこと。まもなく建設が始まるようだ。

再開発事業のプレスリリースでは「商業の集積による更なる駅前のにぎわい、区の広域行政拠点にふさわしいまちづくりを目指し(中略)利便性の向上を予定しております」と、その意義を強調している。付近には老朽化した建物が密集しており、防災対策の意味でも必要な都市計画だという。

しかし、投稿者の男性は異議を唱える。

「確かに防災対策が必要だが、現状維持か、民間任せの極端な再開発かの2択しか示されないのはおかしい」
「街並みの保存と防災を両立させる策を考えるのが、行政の仕事ではないのだろうか」
利用者の気持ちを踏まえない再開発に対する憤りがにじむ。

確かに、街づくりや再開発の場では意見の衝突が多く見受けられる。筆者の地元・宮城県でも、東日本大震災の復興工事で行政と住民が対立する場面が相次いだ。気仙沼市内湾地区では今年4月、宮城県の施工ミスによって防潮堤が計画より22センチ高く造られてしまった。

防潮堤の議論は震災直後から住民と行政の間で100回以上も交わされていた。港町気仙沼の人々は海への思いが強い。津波に襲われたとは言え、住民からは「せめて1センチでも低く」との声が出ていた。「たった22センチ」では済まされない問題だ。しかし、県は責任の所在も十分に説明しないまま工事を断行した。このまま壁はできたにしても、住民との溝は埋まらない。

他にも「家があった場所に行政が勝手にモニュメントを建てた」「かさ上げ工事の影響で震災遺構が一方的に取り壊される」との声も聞く。行政がスピード重視で街づくりを進めると、望ましい反響は得られないようだ。

かさ上げ工事が進む東日本大震災の被災地(2018年1月20日、宮城県名取市で筆者撮影)

一方、住民が望んだ街づくりを達成できた地域もある。石巻市にっこり北上地区では、震災の約1年後から住民主体でワークショップを重ねた。市の復興計画に住民の意思を反映させるため、高台移転の計画を作った。その結果、全世帯が希望した移転区画に転居することができた。公民館や消防の出張所が造られ、2019年度中に地区の行政機能も完成する予定だという。

街づくりの主人公は行政や建設会社だけではない。地域住民も参画しなければ、望ましい姿は実現できないだろう。

件の立石駅前再開発事業では、プレスリリースにこんな言葉があった。
今後は権利者・行政の方との連携を深め、再開発組合設立に向けた活動を支援し、街づくりに貢献してまいります

さて、そこに地域住民はいたのだろうか。

 

参考記事:
・12日付朝日新聞朝刊(東京12版)14面「まちの魅力消す再開発に反対」
・11日付朝日新聞電子版「住民が決める、まちづくり 宮城・石巻、全員の要望聞き高台移転した地区 東日本大震災8年目」
・2018年12月18日付河北新報オンラインニュース「防潮堤施工ミス(気仙沼)地元の思い くみ取れず」(https://sp.kahoku.co.jp/tohokunews/201812/20181218_13030.html

参考文献:
・旭化成「『立石駅北口地区市街地再開発事業』都市計画決定のお知らせ」( https://www.asahi-kasei.co.jp/asahi/jp/news/2017/ho170609.html