あなたは高校の先生です。ある日、あなたのクラスの女子生徒に、実は妊娠していることを告白されました。女子生徒はこのまま卒業まで、学校に通い続けたいと考えているようです。お腹がふくれれば周囲に隠すということもできませんし、事実を知ってしまった以上、校長や周囲の生徒にも説明をしなければなりません。校長にこの事を相談したところ、学校では支援しきれないという理由で女子生徒に「自主退学」を勧告するよう言い渡されました。
さて、この場合あなたならどうするでしょうか。女子生徒の希望を尊重して通学を続けられるよう校長に掛け合いますか? それとも、校長の言うことが正しいので女子生徒に自主退学を勧めるでしょうか?
まるでドラマのようなこの話、2015年~16年にかけて全国の公立高校で32件、実際にあったことなんです。
文科省の調査によると、同期間学校側が生徒の妊娠・出産を把握した件数だけでも2098件もあったそう。そのなかで、懲戒退学はなかったものの、学校側の勧めで「自主退学」したケースは32件。さらにそのうち、生徒や保護者が「通学、休学や転学」を希望したにも関わらず学校側が退学を勧めたケースは18件とされています。
文科省としては「高校卒業に向けた学習ができないことは、貧困の連鎖などに繋がる恐れがある」として、全国の教育委員会にも、子どものために必要な配慮を求める、ということのようですが…。
実際のところ、現場である学校側の言い分も文科省側の言い分も間違ってはいません。冒頭に書いたような状況で自分が教師の立場であったら、他の生徒の様子を見つつ自分の仕事をしつつ、さらに妊娠した生徒のケアもすることが果たしてできるかどうか。ともかくひとりではまず無理です。
けれど自分が、友達が、自分の子どもがその女子生徒だったとしたら。
自主退学を進める学校側の見解のひとつに「学校の支援体制が十分ではなく、本人の安全が確保できないと判断した」というものがあります。これも大切な判断基準です。けれどもやはり、その後のことを考えると高校は卒業しておきたいところ。
支援体制の整備なども必要ですが、学歴や経歴に左右されず、どこからでもスタートを切り直せる社会の仕組みになってほしいものですね。
参考記事:
30日付 朝日新聞夕刊(東京3版) 1面 「妊娠生徒 勧告で退学32件」