「海と陸をすべて高い防潮堤で覆うことは、自然や文化に対する様々な問いを封殺することにならないか」
こんなことをいう人を、わたしは初めて知りました。
民俗学者の赤坂憲雄氏。赤坂氏の新著「性食考」は、東日本大震災の惨状を目の当たりにした問題意識から、神話や物語のなかで混じりあう、人間と自然、文化と野生などの営みを読み解いた作品です。
現代人はどこか、自然と人間を切り離して考えているところがある。自然とは何ら関係のないところで自分達は生活している、と。
津波を防ぐために築かれようとしている高い防潮堤。赤坂氏はそれを見て思ったそうです。また、被災地で目撃した泥の海に、古事記の「国産み神話」でイザナミとイザナギによってかき回された原初の海を見たといいます。
いままで、被災地を取り上げた記事でこのような切り口を見たことがありませんでした。間接的な表現ですが、あの震災を人間では太刀打ちできないものであると言い切ったのです。人道的には際どいラインの話かもしれません。実際に震災で親族や親しいかたを亡くしたかたには気分の悪くなる話でもあるでしょう。
しかし、一人の文章を書く人間として、これほどまでに振り切った文筆家の目線の鋭さには「見事」「あっぱれ」というほかありません。
参考記事:
29日付 読売新聞朝刊(13版)15面(文化)「人と自然 混じり合う生・性・死」