「かくれんぼしよう」
当時3歳の男の子は父親にそういわれて、狭い箱の中に入ったそうです。
赤ちゃんポストが設置されて10日で10年がたちました。私は、物心のついた子どもが赤ちゃんポストに騙されるようにして入れられたことを知り、当時、深いショックを受けました。その子は今、どんな暮らしをしているのでしょうか。
赤ちゃんポストは、さまざまな理由で親が育てることができない子どもの命を守るために設置されました。この10年間で預けられた子どもの数は125人。命を守る役目を果たしている反面、身元が判明しない場合、自分の出自をまったく知ることができないという問題があります。
身元が判明した場合にも問題はあります。里親家庭での養育の場合、実の親族が引き取りたいといった場合、育てられて数年たっていても里親から引き離される可能性があります。これは実の親に「捨てられた」という感覚を持っている子どもにとっては心の傷を深める行為です。
また、預けられた子どものその後を見守る仕組みもありません。
このように日本では赤ちゃんポストに対応する仕組みが整えられておらず、預けられた後の仕組みが粗末であるといえます。そのため、2例目の設置は進んでいません。
一方で、ドイツでは国内に100ヶ所あまりもポストがあります。預けられた子どもの生活環境が良好かどうかを継続的に調査するなど、成人するまで支援が続けられます。また、望まない妊娠をした女性に対しても多様な支援があります。国主導で母子を支えているのです。
赤ちゃんポストは望まない妊娠をしたり、経済的に子どもを育てられなかったりした母親たちを救う画期的な取り組みだと思います。しかし、預けられた子どもたちが幸せに暮らすことができる、きめ細やかな支援も求められています。赤ちゃんポストの今後を注目していきたいです。
参考記事:
10日付 朝日新聞朝刊(大阪14版)31面(社会)「赤ちゃんポスト開設10年」
同日付 読売新聞朝刊(大阪14版)33面(社会)「赤ちゃんポスト開設10年」