この時期、キャンパスで初々しい新入生の姿を見ていると、必ず入学時の自分のことを思い出します。
私は初めて訪れる場所では近隣の書店や図書館の有無をチェックすることが多いのですが、上京したばかりの時も、例にもれず自宅周辺を探してみました。徒歩2分のところに市立図書館が、隣駅の駅ビル内に書店がありました。何となくほっとしたのを覚えています。幼い頃から本の虫だった自分にとって、書店や図書館はたくさんの本との出会いがあるだけでなく、静かで居心地のよい空間だからです。
電子書籍の台頭以降、紙の書籍は苦戦を強いられていました。ですが、居心地のよい場所を提供する工夫した店づくりで電子書籍に対抗する書店が、近ごろ国内外で増えてきています。
米国や欧州では電子書籍の売り上げが伸び悩む一方で、紙の書籍の売上高は15年、16年と増加傾向にあります。背景には「デジタル疲れ」や、紙の書籍に対する電子書籍の価格面の優位性が薄れてきたことにあるようです。ネット通販のアマゾンは積極的に電子書籍の値下げを実施してきましたが、こうした状況を受けて値下げを弱め、実店舗の運営にも力を入れていく方針です。
日本は書籍販売の低落からなかなか抜け出せずにいますが、魅力的な店づくりに取り組む書店側の奮闘も見逃せません。私は普段からさまざまな書店を訪れますが、ディスプレイを工夫したり椅子を用意したり、中にはカフェを併設したりして利用客の心を掴んでいる店舗もたくさんあります。先日訪れた書店では、「白」や「水」などテーマごとに本を並べるという面白い工夫がされていました。小さいお店でも、ニッチなジャンルの書籍を充実させた品揃えで一定層のファンを掴んでいるところがあります。少し前には東京・池袋にオープンした「泊まれる本屋」が話題になりましたね。
紙の書籍と電子書籍、双方に長所と短所があり、状況に応じて適宜使い分けている人も多いと思います。私はかさばらず、持ち運びが楽であるという点が電子書籍の良い所だと考えています。ただ、紙の本の手触りや独特のにおい、装丁、ページをめくる動作など、デジタルにはない味わいに、やはり親しみを感じます。
本が並ぶ場所を訪れ、こうした味わいを感じながら本に親しむ人が増えていけば、紙書籍もまだまだ愛され続けるのではないでしょうか。
参考記事:
4月2日付 日本経済新聞 13版 7面「アマゾン、電子書籍値下げ弱める」