美術館で貸し出している「音声ガイド」を使ったことはありますか。展示されている美術品の近くに掲示された番号を入力するだけで、作者や歴史などの説明が流れます。1台500円程度で借りることができますが、筆者は「わざわざ借りなくてもいいかな」と思ってきました。本日はそんな音声ガイドに注目してみます。
音声ガイドの魅力やありがたさに気付いたのは海外旅行の時でした。先日、フランスとイタリアへ行きました。多くの美術館で多言語に対応した音声ガイドを借りることができます。言葉がわからなくても、予備知識がなくても、美術館を楽しむことができ、勉強になりました。
フランス・パリのルーブル美術館とイタリア・ローマのフォロ・ロマーノの例を見ていきましょう。まずはルーブル美術館です。この音声ガイドはなんと「Nintendo 3DS」。フランス語、英語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、日本語、韓国語の7ヶ国語に対応しており、1台5ユーロで借りることができます。
目的の美術品を選ぶと、カーナビのように案内してくれます。また、目的地までに通るルートにある美術品の説明もしてくれるのです。RPG感覚で美術館内を探検することができました。
次にフォロ・ロマーノを見てみましょう。ここは古代ローマ帝国の政治・経済の中心地でした。現在は遺跡として残っていますが、雨ざらしのため風化が進んでおり、何だかわからないものも少なくありません。ここの音声ガイドはスマートフォンタイプで地図が表示され、現在位置も示してくれます。1台7ユーロで、イタリア語、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語、中国語、日本語、アラビア語、ポルトガル語、ポーランド語の11ヶ国語に対応しています。
例えば、この遺跡は土台しか残っておらず、脇に説明もないため、素通りしてしまいそうです。しかし、これはアウグストゥス帝が作らせた黄金の里程標(マイルストーン)があった場所で、ローマから各地への距離が書かれたそうです。「すべての道はローマに通ず」の起源となったところでもあります。音声ガイドがなければ足を止めることはなかったと思います。
一方で、有名な施設でも音声ガイドの用意がないところもあります。宗教画や彫刻が多い美術館では、高い入場料を払ったものの、作品の詳しい背景がわからないまま館内を散歩するだけになってしまいました。
海外で音声ガイドの重要性を感じた筆者は、日本の美術館の外国人観光客用に音声ガイドについて調べてみました。
今回訪れたのは千代田区の東京国立近代美術館です。ここで用意されている音声ガイドは日本語と英語だけです。担当者に日本語と英語の貸出率を尋ねると、半々くらいだと教えてくれました。英語圏ではない、韓国人やフランス人も英語版を借りていくそうです。母国語の音声ガイドがなければ、英語で聞くしかありません。
立場を変えて考えて見ましょう。もし旅先の美術館で借りられるのが、その土地の言語と英語のガイドだけだったら。せっかくやってきたのですから、やむを得ず英語版を聞くでしょうが、どこまで深く理解できるでしょうか。そんな不便さを、海外からのお客様に強いているわけです。
こちらがその音声ガイドです。なかなか年季が入っています。外国語の音声ガイドが英語しかないことに不親切さを感じずにはいられません。そう思ってしまいますが、今、東京五輪に向けて新しいものを作っている最中だそうです。英語に加え、中国語や韓国語なども用意される予定です。国立美術館は政府から東京五輪に向けて対策するように指示されているそうで、音声ガイドの多言語化もその一環です。
他の美術館でも、日本語ガイドのナレーターに芸能人を起用するなど、力を入れているところはありましたが、多言語に対応しているところはほとんどありませんでした。ルーブル美術館やフォロ・ロマーノの音声ガイドがどれほど丁寧だったかを痛感しました。
日本にある美術館に日本人が行くだけであれば、必要性はあまり感じないかもしれません。しかし、自分が日本に訪れた外国人だったら…。日本語がわからない人にとっては音声ガイドが頼みの綱です。観光立国を目指し、3年後の東京五輪に向けてさらに観光客は増えていくことでしょう。より楽しんでもらうためには、美術品をはじめとする日本の文化を理解できることがカギとなります。多言語での丁寧な説明が欠かせません。是非、美術館をはじめとする観光地に英語はもちろん、他の言語の音声ガイドを普及させ、多くの観光客にさまざまな姿の日本を知っていってほしいと願います。コストはかさみますが、できるだけ多くの言葉に対応したものにしてほしいものです。
(写真は全て筆者撮影)