希望すれば、結婚後もこれまでと同じ名字を名乗れる旧姓使用。大手企業などを対象にした2013年の調査によると、容認したのは64.5%でした。裏を返せば、現在でも戸籍姓を使うことを強制される職場が少なくないということです。
働く女性が姓を変えることで、直面する壁はたくさんあります。例えば名刺やメールアドレスを変えなければならなかったり、発表した論文や本の著者名が変わり別人だと思われてしまったり。筆者自身も卒業後は就職し、結婚後も仕事を続けたいと考えています。様々な障壁が生じてしまうのならば、もちろん旧姓の使用を考えます。
結婚後の旧姓使用を認めないのは不当だとして、日本大学第三中学・高校の30代の女性教諭が同校の運営法人に旧姓の使用と損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は請求を退けました。原告は学校側が旧姓使用の継続を認めなかったため、通知書などの文書では戸籍姓、教室内では旧姓を名乗っています。判決では旧姓使用を「法律上保護される利益」と認めつつも、「旧姓を戸籍姓と同じように使うことが社会に根付いているとまではいえず、職場での戸籍姓の使用を求めることは違法ではない」と判断しました。その理由として「既婚女性の7割以上が戸籍名を使っている」とする新聞のアンケート結果や旧姓使用が認められない国家資格が「相当数」あることを挙げました。
各紙で指摘されているのは、昨年12月の夫婦同姓規定を巡る最高裁判決と矛盾が生じている点です。合憲と判断した根拠となったのは「近時、通称使用が広まり、女性が姓を変えることによる不利益は一定程度は緩和され得る」というもの。確かに、旧姓使用は少しずつ社会に浸透しつつあります。政府は「女性活躍加速のための重点方針」で旧姓の拡大を盛り込み、住民票の写しやマイナンバーカードでの併記も検討しています。
しかし、職場においては旧姓使用を定めた法律がなく、対応は企業や団体に委ねられています。また夫婦別姓を認めない現行法では、職場で旧姓が使えないことを違法とまで断じるのは難しいという見方もある、と記事は伝えています。
女性の社会進出が進んでいます。晩婚化とともに、結婚後も働き続ける女性は大幅に増えました。筆者もこの判決は今の時代にそぐわないものだと感じます。名前が変わることで、取引先との人脈やこれまで積み上げてきたキャリアが分断されることも懸念されるでしょう。すべての人に、旧姓か戸籍姓かを選ぶ選択肢を与えてほしい。そのためには政府が積極的に企業に訴えかけるほか、法の改正も不可欠です。「国会で論じ、判断するものだ」との結論を下した夫婦別姓のあり方についても、いまだに議論は深まっていません。結婚や家族にとどまらず、ライフスタイル全体で価値観が多様化している実態を踏まえ、時代に沿った民法にしていくべきです。日本には、まだまだ女性が働きにくい環境があります。私たち自身が声を上げていくことも続けていかなければなりません。
参考記事 12日付 各紙「旧姓使用認めず」関連面