「わさびずし」 職人のこだわりはどこに?

(うわ、辛そう…。あれじゃ、すしの味なんてわからなくなるよ。)
 朝のワイドショーで映された、大量のわさびがのったおすしの写真を見て、思わず眉をひそめました。
 
 大阪のすし店「市場ずし難波店」が、外国人客にわさびを多めに入れたすしを出していたというクレームを数十件受け、ホームページに謝罪文を掲載しました。同店を訪れた外国人客の中には、従業員から民族差別的な発言をされた者もいるようです。同店は、わさびを増量していた理由について、次のように説明しています。

すしに多くのわさびを乗せていた件ですが、こちらはそのような事実がありました。海外から来られたお客様からガリやわさびの増量の要望が非常に多いため事前確認なしにサービスとして提供したことが、わさびなどが苦手なお客様に対して不愉快な思いをさせてしまう結果となってしまいました。
(市場ずしHPより)

 わさびの増量を求められることが多かったから、すべての外国人客でわさびを増やす。なんとも極端な話です。差別的意図を否定してはいますが、「外国から来た」という、ただそれだけの理由で提供するサービスの中身を決めていたら、それはすでに立派な差別となるのではないのでしょうか。

 わさびが二倍になったら、すし自体の美味しさがかき消されてしまいます。海外から日本に来て、本場のすしを味わいたくて注文したのに、わさびだらけの「わさびずし」を食べさせられてはあまりに気の毒です。

 「市場すし」の売りは「プロの職人がにぎる」ことです。その職人さんたちはわさびを増やすことに抵抗がなかったのでしょうか。卑近な例ですが、ラーメン屋の店主は、客がスープを一口も飲まずに調味料をいきなり入れると気分を害することが多いようです。自分のスープに自信をもっているので、初めからそれを味わいもしないでほかの味を足されると、プライドが傷つくのでしょう。

 すしのわさびも同じです。すしの美味しさをうまく引き立たせる量のわさびを提供し、味わってもらう。お客さんが「もっと辛みがほしい」というのであれば、それに応じてわさびを追加する。それが、自分の腕に誇りを持った職人がするべきもてなしではないでしょうか。

 「おもてなし」という言葉が流行語大賞に選ばれてから三年近く経ちますが、早くもその意識が薄れてきているように感じます。東京オリンピックの開催が決まってしまえば、「おもてなし」はいらないのか。そんなはずはありません。それを売りにして選ばれたのです。その期待に応えるために、もてなしの気持ちを保ち、さらに高める必要があるでしょう。
 
 
 
参考:3日付 日本経済新聞 朝刊 社会面「外国人客に大量わさび」
同日付 朝日新聞 朝刊 社会面「外国人客に2倍のわさび 大阪のすし店『差別的意図ない』」