中学や高校の柔道部で、この2年ほど重大事故が増えているようです。中学の授業で武道が必修化され、柔道の練習の危険性が再認識された2012年度から14年度にかけては、柔道が原因で死亡する生徒はいませんでした。しかし、15年以降、3名もの死者が出たうえ、重体に陥る事故も数件起きています。全柔連の重大事故総合対策委員長は、指導現場の危機感が薄れたのでは、と指摘しています。
こうした深刻な事故はいずれも部活動の中で起きたものです。未経験者も多い授業の方が、危険度が高いように思われるだけに意外です。なぜ経験者ばかりの部活動で、重大事故が繰り返されるのでしょうか。
重いけがを負うのは、中高ともに一年生が多いようです。新入部員ならば経験が浅く、事故につながってもおかしくない。確かに納得はいきます。しかし、「一年生」から連想するのは、それだけではありません。「指導者」や「先輩」に逆らいにくい、ということも、事故につながっていないか。つらいときに「しんどい」と発信できず、無茶な練習を強いられることで事故につながっているのでは。そんな心配が頭をよぎります。
筆者は高校まで文化系の部に所属し、大学でも部活ではなくサークルに入ったため、「きつい練習」や「厳しい上下関係」といったものに縁がありません。しかし、中高時代も、大学生になった今も、周囲で部活をしている人の話を聞くと、理不尽と感じることばかりです。莫大な宿泊費が必要にもかかわらず、本人が出もしない大会の応援を強要されたり、「部活仲間」と仲良くならなければいけなかったりする金銭的・精神的な強制。さらには、怪我をしている生徒にも筋トレをさせる、退部したがっている生徒を他のメンバーの前でさらし者にするなど、常軌を逸しています。異議を唱えれば良いのに、と思いますが、「先輩・監督には逆らえない」のだそうです。
こうした疑問を口に出すと、皆そろって「部活なんだから」と言い返してきます。「部活はきついもの」「多少理不尽でも仕方がない」という観念が根付いているのでしょう。確かに、厳しい練習やチームでの協調性は試合成績につながるでしょうし、上下関係を大切にすることはその後の人生にも大いに役立つことでしょう。しかし、度を越せば危険を伴いますし、人間関係は強制されて築くものではないはずです。目上の人を敬うことは大切ですが、言いたいことも言えないようでは、「尊重」ではなく「服従」なのではと感じます。
実際に部活動に参加していないから、このようなことを言えるのかもしれません。しかし、死者が出るようでは、「仕方ない」では済まされません。柔道に限らず、部活の常識をもう一度見つめ直す時期ではないでしょうか。
参考:24日付 朝日新聞朝刊 一面 「柔道部活 やまぬ事故」
総合三面 「柔道重大事故 防ぐには」