ここ数か月、物価高が続くなか、転職の増加による人材難、人口減少による人手不足の深刻化で売り手市場の傾向が強まっています。こうした背景から、優秀な社員を確保するために、新卒採用者をはじめとした給与引き上げの動きがでています。大手企業では大卒の初任給を40万円とするケースもみられます。どの業界・業種においても、人材不足が大きな課題となっていることから、企業間の競争は一層白熱している状況です。
しかし、こうした賃上げの動きには、不満の声や副作用が報じられています。例えば、昨年入社した社員や30代・40代といった中堅社員の給与です。彼らが努力の末に得た給与が、新卒社員と同水準になってしまうことに対し、不満を抱いています。数十年働いてきた成果が、新卒と同じ給与となれば、当事者としては納得しがたいものがあるでしょう。
また、中小企業の賃上げの難しさも考えなければなりません。国内企業の99.7%を占める中小企業の中には、賃上げを積極的に進める会社がある一方で、引き上げが難しい会社も多く存在しています。背景には、業績低迷や物価動向があるとされます。さらに、日本商工会議所が実施した最低賃金引き上げの中小企業への影響に関する調査結果によれば、政府が目標とする2020年代に全国加重平均1500円の目標に対して、74.2%の企業が対応は困難・不可能と回答しており、実際のところ、かなり深刻な状況です。このような状況を踏まえると、賃金が上昇する大手企業と、現状維持がやっとという中小企業との格差がさらに広がることが懸念されます。学生や転職者がより高い給与を求めて大企業へ流れることで中小での人材不足はさらに厳しくなり、産業を支えている下請け企業の経営にも悪影響を及ぼしかねません。
さらに、先日発表された生活保護受給率の増加も、長期的な視点で考えるべき重要な問題だと筆者は考えます。高齢者の受給が多いため、高齢化社会の進行に伴い増加は避けられない趨勢にあります。今後、就職氷河期世代が年を取れば、経済的に困窮する人がさらに増加することが懸念されます。
その際に社会保障の負担を担うのは若年世代であり、私たちの経済力が重要な鍵を握ります。だからこそ、今のうちに給与水準をある程度引き上げ、将来の社会保障負担に耐えうる経済的基盤を築くことが求められるのではないでしょうか。
もちろん、給与が全てではありません。しかし、賃上げが難しい中小企業においては、ワークライフバランスの充実や柔軟な働き方の導入など、別の方法で人材確保を進めることが求められています。例えば、リモートワークの導入や福利厚生の充実、キャリアアップ支援など、給与以外の魅力を打ち出し、働き手にとって魅力的な職場環境を整備することが重要だと考えます。
今後、日本全体で人材不足や経済格差、社会保障の問題にどう対応していくかが問われています。企業は、給与の引き上げにとどまらず、働きやすい環境づくりや成長機会の提供といった総合的な対策を出す必要があると筆者は考えます。
【参考記事】
6日付 読売新聞 朝刊 (社会)13版 「生活保護申請25万5897件 5年連続増」
5日付 日経電子版 「最低賃金1500円「対応不可能・困難」7割 中小企業調査」
6日付 「賃上げ「満額で人材囲い込み」 春季交渉、要求平均6.09%」
6日付 「ゼンショー11.24%賃上げ 初任給31.2万円、外食最高水準」
7日付 「読み解きミニ白書〈下〉労組ない企業、賃上げ率低く中小で遅れ」
【参考資料】
TBS NEWS DIG Powered by JNN:「月収の高さ 新入社員と逆転も?「初任給」30万円超えへ“本音”は【Nスタ解説】|TBS NEWS DIG」