共同親権 導入決定 「子の利益」甘い言葉に惑わされず、緻密な制度設計を

とある日、筆者が街中にいたところ、一人の男性の街頭演説の声が聞こえてきました。その方は、離婚後に元妻が子供を連れていき、何年も子供に会えていないとしたうえで、「共同親権」の導入を求めていました。

子に会いたいという男性の叫びを切実に感じ、その後の学生生活で家族法を勉強するきっかけになるなど、筆者にとってとても印象深い出来事です。

 

今月、共同親権の導入が決まりました。改正法は、2年以内に施行される見込みです。

共同親権の導入によって、日本の家族や親子関係の在り方はどのように変化していくのでしょうか。

そもそも親権とは、未成年の子を保護するために父母に与えられた権利や義務を指します。戦前は、婚姻の有無に関わらず、原則として親権者は父親と定められていました。しかし1947年の民法改正により、結婚している間は父と母が共同して親権を持ち、離婚した後はどちらか一方を親権者として定めることとなりました。

 

「家のため、親のための家族法」として子を支配するものから、「子のための家族法」として後見性や社会性を重視し、子の利益を優先する者に変化してきたのです。

 

今回、離婚後の「共同親権」の導入に向けた議論がなされたのは、離婚後も父母双方が子育てに責任を持ち、子どもの利益を確保するとともに、離婚後も子供との関係を保つためでした。また、片方の親が外国籍の場合、日本国籍の親が子どもを日本に連れ帰ることで、外国籍の親は子との交流を絶たれてしまう問題を解決する狙いもありました。

19年には、国連の「子どもの権利委員会」から日本政府に対し、外国籍の親も含めた児童の共同養育を認めるため、離婚後の親子関係について定めた法令を改正する措置をとるよう勧告を受けています。

 

これまでは、父母が離婚した際はいずれか一方を親権者として決めなければならず、親権者の記載のない離婚届けは受理されてきませんでした(戸籍法76条)。

 

離婚には協議離婚と裁判離婚の2つがあり、協議離婚では、父母の話し合いで親権者を決定し、それでも決まらない場合に家庭裁判所の審判によること、裁判離婚では裁判所が父母の一方を親権者に定めることが定められています。離婚について合意はしても親権者をどちらとするかで合意できないケースでは、調停の場での解決が図られてきました。

しかし、親権者とならなかった父母を「監護者」に指定することで、子との一定の関りを確保する制度もあります(民法766条)。

監護権には、子が住む場所を指定する権限(居所指定権、821条)、アルバイトなどの職業を営むことへの許可を与えたり、取り消したりする権限(職業許可権、823条)などがあります。離婚後に単独親権しか認めない制度下では、親権者としての地位はない親でも、一定の範囲で子に関わる権利は認められていたと言えます。

 

親権において、なによりも重視されるべきは「子の利益(820条)」です。児童虐待など、父や母が親権を適切に行使しない場合は、親権を喪失させたり、一時的に親権の行使を制限したりと、不適切な行使を規制する制度があります。

 

今回導入された共同親権では、離婚後に共同親権を選択しても、一方の親から子への虐待や父母間の家庭内暴力(DV)の恐れなど「子の利益」を害する場合は、単独親権とする旨が盛り込まれました。また、「窮迫の事情」、つまり緊急手術など差し迫った状況では、単独で親権を行使できるとしています。

共同親権の導入にあたっては、何が窮迫の事情にあたるかが曖昧なことや、転居の際などにもう一方の親と合意しなければいけないため、DVの被害から逃れられないことが問題点として指摘されています。

 

共同親権を含む改正法は、26年までに施行されることとなっています。今後は、制度の運用に向けた調整や、具体的な態勢が整えられる予定です。本来守られるべき「子」に重点を置きつつ、甘い言い回しに惑わされず、現実を踏まえた明確な制度設計が必要だと考えます。

 

【参考記事】

2024年5月17日 読売新聞朝刊[東京]1面『「共同親権」きょう成立 民法改正 子の利益確保』

2024年5月17日 朝日新聞デジタル「【そもそも解説】離婚後の共同親権 なぜいま導入?」

【参考資料】

国際連合 児童の権利委員会「日本の第4回・第5回政府報告に関する総括所見」2019年3月5日

共同親権とは 離婚後の子どもの親権どうなる 賛成と反対 意見の内容は?NHK

本山敦ほか著「家族法[第3版]」、2021年2月10日、日本評論社、p.115-130

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