ネパールの人身売買 現地で救出活動にあたる日本人が講演

4月13日、東京都新宿区のチベットレストラン「タシデレ」でネパールの人身売買問題に取り組んでいる中原一博さん(71)が活動報告会を開きました。人身売買の被害者は世界で約4000万人いると言われています。ネパールでは2015年に発生した大地震の影響で経済的に困窮している地域が今も多くあります。現在ネパールでどのような問題が起きているのかお話をお聞きしました。

ネパールの人身売買問題に取り組む中原さん(4月13日、筆者撮影)

中原さんはインド性産業売られた少女を助け、ネパールまで連れて帰る活動を続けています。またHIVに感染した女性や子供の支援や身体障害者の自立を助ける事業取り組んできました 

現在、ネパールで人身売買の被害者の数は4万にものぼります。その中で1年間にインド性産業売られるのは1万2000人です。1日当たり30人から40人ほどということになります。ネパールとインドの国境はフリーパスでビザが無くても通ることができます。国境が行き来しやすいためインドに連れていかれることが多いのです。インド以外に中東などに売られる場合もあり、過去にはイランから救出したということもありました。

 

中原さんはインドの娼婦街から少女を救出しその後、当時の状況を聞かせてもらうといいます。救出された少女の1人は高校卒業後に大学進学を考えていました。親に相談しましたが学費がないため諦めざるを得ない状況でした。たまたま親戚が集まるときにそのことをおじさんに相談したといいます。おじさんはインドの大学に行くなら援助してやると言いました。その後おじさんといっしょにインドのアーメダバードに行きました。

現地に到着したら一緒に来たおじさんはいつの間にかいなくなっていたと振り返ります。娼館のボスに「お前は売られただ。学校で勉強をするわけではないから諦めろ」と言われました。それから3ヶ月間、彼女は鍵のかかった部屋から全く外に出ることができませんでした。3ヶ月後に中原さんは彼女の情報を得て、警察と一緒に救出したとのことでした。 

監禁中に逃げ出そうと試みるは少なくないといいます。しかし、建物の外に出てみても自分がどこの地域にいるのかすら分かりません。またお金も持っていないためどこにも動くことができず再び娼館に戻ることになります。逃げ出したことが発覚すると娼館のボスは激怒しひどく殴られます。救出された少女は実際に殴られて死んだ女性を見たことがあるといいます。娼館と地元の警察は手を組んでいることが多く、たとえ人が死んだとしても何も起こりません。ただ人が消えてしまうだけなのです。

活動報告会の様子(4月13日、筆者撮影)

人身売買は親、親戚が売る場合が20%、薬を使われて気を失ったまま連れて行かれる場合が10%、残りの70%は「いい仕事があるぞ」と騙されて連れて行かれるケースです。田舎の地方では15歳を過ぎると出稼ぎに行けという圧力があり、インドで稼げるという甘い話に乗っかってしまう人が多いのです。勉強を続けたい田舎を出たいと理由は様々ですがいずれも貧困層が狙われてしまいます。

インドの娼館で働かされている女性にはネパール人以外にもバングラデシュ人、スリランカ人もいます。しかしアジア系で色が白い、子供に見えるネパール人はターゲットになりやすいといいます。また年齢が若ければ若いほど高く売れます。中原さんは18歳以下のネパール人が働かされている場所を狙って救出をします。多くの場合、救出前に警察が来るという情報が知られてしまい少女を隠し部屋に入れられてしまいます。ですので壁を壊して探すこともあり捜索は大がかりなものです。ネパール人以外の人も救出しますが、その後は警察に任せているといいます。 

人身売買は少女だけでなく若い男も対象になります。こちらは町工場やホテルで働かされます。中原さんが見せてくれた写真には8歳から16歳の男子が写っていました。朝の6時から夜中の2時までずっと働かされ、寝る時間はほとんどありません。サボったら殴られ、逃げることはできません。 

報告会が行われたチベットレストラン「タシデレ」(4月13日、筆者撮影)

現在、国境にチェックポストのようなものを作り、売られる前に止めるという活動や稼げる仕事があるという甘い誘い話に乗らないように呼びかける啓蒙活動も始めています。ただ、近年は都市部の高校に通う女子がSNSを通じて騙されてしまうという事例もあるといいます 

中原さんは日本の若い世代へ「そういう問題があるということに関心を払ってもらいたい」と話します。突然、監禁されて1日20人の相手をさせられ、死にたいと思っても逃げられない。エイズになって死ぬ人もいる。このようなことが世界で起こっていることを私たちは知らなければなりません。