生きづらさを抱えるあなたへ、ポケットサイズの『かくれが』を

“こんにちは！

あなたはいま、どんなかんじ？“

『かくれてしまえばいいのです』に入ると、「かくれが」の管理人「むかんけいばあちゃん」がこんな言葉で出迎えてくれました。

手書きのような親しみやすさのある文字からは、本当にちょっと声を掛けられたような温かさをおぼえます。

絵本作家のヨシタケシンスケさんが全面的に協力をしたプロジェクト、『かくれてしまえばいいのです』が、多くの来訪者を呼んでいます。

このプロジェクトは３月の自殺対策強化月間に合わせて公開されました。

「生きるのがしんどいと感じている子ども・若者向けのWeb空間」として、匿名・無料で２４時間いつでも利用できます。３月１日に公開されたのち、２週間で来訪者が１００万人を超えるなど、開設してから間もないにも関わらず、多くの人の居場所となっているようです。

かくれがは「しにたいきもちとむきあうエリア」と「しにたいきもちをやりすごすエリア」に分かれています。

前者ではロボ（AI）とのおしゃべりを通じて自分の気持ちに向き合える「ロボとおしゃべりコーナー」や今の正直な気持ちを文章にして外に出す「こっそりハッキリ発表ルーム」、後者ではWeb空間に集う人がすきなものを教え合う「あなたのオススメおしえてルーム」やしんどい気持ちがちいさくなるまでゲームに集中できる「ゲーム自習室」などが設けられています。

かくれがの中で一貫しているのは、自分と他者の間に程よい距離感が保たれていることです。

かくれがの管理人であるむかんけいばあちゃんは、「アタシは、あなたとはむかんけい」としつつ、無関係だからこそ何を話しても大丈夫であり、あなたに対してできることがあることを伝えてくれます。また、ロボとおしゃべりコーナーでは、「ワタシはただのプログラムなので、何を言っても大丈夫！」という記述があります。

翻って、こっそりハッキリ発表ルームやあなたのオススメおしえてルームでは、自分の気持ちやオススメを外に表明できるとともに、匿名の他者の気持ちを垣間見ることができます。

自分の存在が過剰に意識されることも蔑ろにされることもなく、程よく他者の存在を感じながら自分にとって心地よい時間を過ごしていける体験は、日常生活でも普段のSNSでもなかなか得られないものなのではないでしょうか。

自殺対策支援の観点から捉えると、Web空間からスムーズかつ垣根なしにNPOなど専門家の相談サービスに繋がれる点が優れていると言えます。

かくれがに設けられたスペースの一角から「そうだんセンター」にアクセスすることができ、相談する初めの一歩を踏み出しやすくする工夫が感じられます。また、他のエリアと比較してもかしこまった雰囲気がないことが分かります。

さらに、SNSや電話で専門家に相談できることを知らない人や、専門家に相談するのは気が引けると感じる人の存在も想定しているのでしょう。「あなたの話を聞きたがっている人がいる」というスタンスで窓口を開いているため、AIロボやWeb空間に集う人とのコミュニケーションの延長線上として、専門家に相談できるようになっていると感じます。

筆者が昨年自殺に関する記事を書いた際、小中高生が死を選ぶ動機の上位に学業不振や家庭内の不和が挙げられることや、支援策として自治体や行政によるSNSを通じた支援策を紹介しました。

小中高生の自殺者最多５１４人　1人ひとりに目を向けて | あらたにす (allatanys.jp)

このプロジェクトも、SNSを中心とした支援策が講じられている点で共通します。しかし、自分と向き合う相手として、AIやWeb空間に集う人々、専門家と多様なアクターが存在していることで、よりその人に合った寄り添い方ができるようになっていると思います。

筆者はヨシタケシンスケさんの文体やイラストレーションが好きで、大切な人のプレゼントとしてヨシタケさんの作品を贈ったこともありました。

プロジェクトのコンセプト策定や全体の世界観・コンテンツ作成などにもヨシタケシンスケさんが関わっているだけあり、一つひとつの言葉がそっと寄り添ってくれる感覚があります。

また、NPO法人「自殺対策支援センター　ライフリンク」が運営を担っているため、訪問者向けに様々な配慮がされていることが読み取れます。しんどい思いをしてきた「センパイ」が経験を伝えてくれるスペースでは、読んでいてもし余計にしんどくなりそうなら一度読むのをやめることを促すなどしています。

もうすぐ３月が終わります。望むと望まないとに関わらず４月から新たな環境に身を置く人もいることでしょう。

何かりゆうがあってしんどいとき、りゆうはわからないけどしんどいときは『かくれてしまえばいい』のかもしれません。

この空間が、日常を生きるあなたにとって「かくれが」となりますように。

【参考記事】

２０２４年３月２９日付　読売新聞『生きづらさ感じたときは「かくれてしまえ」このサイトに…　ヨシタケシンスケさん協力、２週間で１００万人』

【参考資料】