文部科学省はユネスコ(国連教育科学文化機関)「世界の記憶」の国内候補として、「広島原爆の視覚的資料-1945年の写真と映像」など2件を推薦する、と発表しました。朝日新聞社と中国新聞社、毎日新聞社、広島市、中国放送、日本放送協会(NHK)の6者が共同申請したものです。
提出した「広島原爆の視覚的資料-1945年の写真と映像」の資料は被曝した市民自身や報道カメラマンによって撮影された多数の写真と動画からなります。
「世界の記憶」は、重要な記録物への国際的な認識を高め、保存やアクセスを促進することを目的にしています。これまでに「アンネの日記」や「ベートーベン交響曲第9番」が登録されています。今回の登録が実現すれば、ヒロシマについて世界の多くの人がアクセスすることが可能になり、核兵器による悲惨さをあらためて世に伝え、後世に残す重要な資産となるはずです。加盟195カ国の中には、核を保有している米露英仏中も含まれるため核所有に関して再度考え直す良い機会になるのではないでしょうか。
共同申請者のコメントは以下の通りです。
広島への原爆投下によって何が起きたのかを克明に記録したのが、本資料の写真や動画です。被爆者の高齢化が進む中、戦争と核兵器使用の末に人間にもたらされた惨禍を今に伝える一次資料として役割が増しています。世界中に認知され、過ちを決して繰り返さないための各国政府や市民の取り組みに資するのを期待しています。
コメントにもあるように被爆者の高齢化が進んでいます。筆者は今年の8月に被曝体験の証言者である飯田國彦さんからお話をうかがいました。その際に、「毎年数人の被爆者が亡くなっていき、数年後には被爆者のいない世の中になってしまう」と話されていたことを覚えています。あの時の悲惨さを実体験した人がいなくなってしまった世の中でも「2度と起こしてはならないこと」を継承していくためにも、生々しい写真と映像は重要です。
他国の人々に核の悲惨さを伝えたい思いとともに、まずは唯一の被爆国である日本が変わるべき面もあると筆者は考えます。核兵器の保有や使用、開発などを全面的に禁じる「核兵器禁止条約」への対応です。
今月27日、米ニューヨークの国連本部で核兵器禁止条約の第2回締約国会議が開幕しましたが、核保有国や日本政府の代表の姿はありませんでした。一方、長崎で原爆に遭い日本被団協の事務局長である木戸季市さん(83)や平和首長会議の会長である松井一実広島市長、湯崎英彦広島県知事が参加しています。湯崎知事はパネル討議で「核兵器に頼らない抑止の姿を示す必要がある」と発言しています。抑止力と位置付けられている核ですが、ロシアが核の使用をほのめかして脅しをかけているように、実際使われた時の悲惨さを考えると核以外の抑止力を見つける必要があります。
それを伝えることができるのは被爆国である日本です。米国の「核の傘」に入っていることから昨年に引き続きオブザーバー参加も見送った日本ですが、同じ「核の傘」に入るオーストラリアは参加しています。岸田文雄首相は「核兵器国は一国たりとも参加していない」ことを不参加の理由にしていますが、説明になっているでしょうか。署名もオブザーバーとしての参加もしないことについて、国際社会の理解が得られる説明が求められます。被爆国日本が先頭を切って核兵器禁止条約に署名する必要があるのではないでしょうか。
ユネスコに申請した貴重な「広島原爆の視覚的資料-1945年の写真と映像」とともに、核に対する日本の毅然とした対応が平和に向けた発信力となると思います。
2025年春にユネスコ執行委員会で採択が決まる見通しです。発表が待ち遠しいです。
参考記事:
・29日付、朝日新聞・朝刊・3ページ・東京本社、「「原爆か人間か、分かれ目」被爆者演説 核禁条約締約国会議始まる、日本は不参加」
・29日付、朝日新聞・朝刊・1ページ・東京本社、「広島原爆の写真・映像、「世界の記憶」に推薦 ユネスコへ 朝日新聞社など申請」
・29日付、朝日新聞・朝刊・5ページ・東京本社、「<考論>核禁条約、日本に署名期待 ICAN、メリッサ・パーク事務局長」
・29日付、中国新聞・朝刊・1ページ、「広島原爆写真 推薦 ユネスコ「世界の記憶」登録へ政府」
・29日付、中国新聞・朝刊・3ページ、「五大国不在 溝際立つ「廃絶こそ最善」」
・30日付、中国新聞・朝刊・3ページ、「抑止論からの脱却 強調」
参考文献:
・文部科学省、「世界の記憶」、日本ユネスコ国内委員会
・UNESCO、「States Parties」、World Heritage Convention