今月5日、米軍普天間基地の名護市辺野古への移設工事を巡って、斉藤鉄夫国土交通省が「代執行」に向けた訴えを福岡高裁那覇支部に起こしました。
普天間基地のキャンプ・シュワブ沿岸部(辺野古)への移転は、2006年5月に日米間で合意されました。その後、新基地の建設に対する沖縄県民の強い反発を受け、普天間基地の嘉手納基地への統合案などほかの移転案も検討されることとなります。しかしこれらの案も現地の人々の反対にあい、最終的に鳩山内閣が10年5月に辺野古への移設を閣議決定しました。
基地移転に関する最初の日米間合意が締結されてから17年が経ちましたが、工事の先行きは依然として不透明です。今年4月18日の衆院安全保障委員会で浜田靖一防衛相は、辺野古側海域の埋め立ての進捗率は3月末で約92%であることを明らかにしています。しかし、埋め立て予定海域である2つの区域(主に大浦湾側と辺野古側)のうち、大浦湾側の地盤改良工事については土砂の投入が始まっていません。
計画が承認された13年当時は、最短で22年度に辺野古への移設が完了すると見込んでいました。しかし作業は大幅に遅れており、仮に国の代執行が認められたとしても、辺野古への移設完了は30年半ば以降にずれ込む見通しです。また軟弱地盤の改良工事の進み具合によっては、完成がさらに遅れる可能性もあります。
今回問題となっている、「代執行」とはどのようなものでしょうか。
他人が代わりにできる行為を内容とする義務(代替的作為義務)、例えば移動したものを元の場所に戻す行為などについて、義務を履行しない者に代わり行政庁がその行為をしたうえで費用を義務者から強制徴収する制度です(行政代執行法2条)。
代執行が成立するためには、主に①義務が履行されていない、②他の手段で義務の履行を確保することが難しい、③義務を履行しないままだと著しく公益に反する、の3点が認定される必要があります。
今回は大浦湾側の埋め立て工事の設計変更の承認が問題になっています。今年9月4日の最高裁判決で県の敗訴が確定し承認の義務が生じているため、代執行訴訟でも国の主張が認められる公算が高いと思われます。
口頭弁論は提訴から15日以内に開かれ、早ければ年内にも判決が出るかもしれません。しかし大浦湾側の埋め立て開始から工事完了までは9年ほど、移設完了までは12年ほどかかると見込まれており、普天間飛行場の返還も遅れることとなりそうです。
代執行法は2000年の地方分権改革の一環で盛り込まれた手続です。法改正までのトップダウン型から、国と地方が対等の運営に切り替えられました。国政選挙など本来国が果たすべき事務(法定受託事務)については、強い国の関与が認められていることから代執行も可能とされています。
一方で海の埋め立てを承認するか否かは知事に与えられた権限であるため、それを国が奪うことは地方との権力のバランスを乱すことにもなりかねません。仮に代執行が実行され、国が代わりに承認すれば、全国で初めてのケースとなります。全国の自治体にとっても他人事とはいえません。本訴訟の動きに敏感になるべきでしょう。
【参考記事】
2023年10月6日付 日経新聞朝刊[東京14版]4面『辺野古「代執行」へ提訴 移設工事巡り 国交相「県は承認を」』
2023年10月6日付 読売新聞朝刊[東京14版]1面『国、辺野古代執行へ提訴 設計変更 知事承認せず』関連記事2面
2023年10月6日付 朝日新聞朝刊[東京14版]1面『辺野古 代執行へ国が提訴 高裁に知事へ英霊求める』
2023年4月19日付 沖縄タイムス朝刊2面「辺野古側 92%埋め立て/防衛相答弁 進捗率全体で14%」関連記事2、31面
【参考資料】
令和5(2023)年5月「普天間飛行場代替施設について」防衛省・自衛隊
森聡・福田円編『入門講義 戦後国際政治史』2022年2月25日、慶応義塾大学出版会株式会社、p.273,274
櫻井敬子・橋本博之著『行政法[第6版]』2021年5月30日、弘文堂、p.166
北山俊哉・稲継裕昭編『テキストブック地方自治 第3版』2021年9月30日、東洋経済新報社、p.186