文部科学省の統計によると、通信制高校の数と生徒数は年々増加傾向にあります。それでも、全日制高校の生徒数と比べると少ないのが現状です。
私は通信制高校から大学に進みました。同じ大学で通信制出身者を見かけることはほとんどありません。身近にいない学生も多いようです。私の周囲に限らず、どのような学校なのか知らない人は多いかもしれません。
■学校はビルの中
今回、通信制高校のサポート校である、おおぞら高等学院・京都キャンパスに伺い、生徒2人と先生方にお話を聞くことができました。
おおぞら高等学院自体は高校ではありません。通信制高校の屋久島おおぞら高等学校のサポート校という位置づけです。通信制高校にはサポート校と呼ばれる、卒業をサポートするための施設が設置されるのが一般的です。サポート校では通信制高校だけでは補えない、学習や進路への支援だけでなく、心理的なサポートや対人コミュニケーションに関する助言など、生徒が社会生活を送る上で欠かせない手助けをしています。
屋久島おおぞら高等学校には、全国各地にキャンパス(サポート校)が設置されています。カナダのバンクーバーにもキャンパスがあるため、海外からでも高校卒業資格を取得することが可能です。
京都市では四条烏丸にあるビルの中に入っています。少し歩けば京都市のメインストリートがある大都会の中に佇んでいます。
教室での授業では、全国のキャンパスに向けて配信されているものをテレビで視聴します。コメントや発言を促すことで、オンライン授業で懸念される情報の一方通行化を防ぎ、全国にいる沢山の生徒と一緒に授業を受けている感覚を味わえます。
自宅でも受講できるため、必ずしも登校する必要がありません。卒業要件にキャンパスへの登校日数に関する規定は無く、毎日の通学に抵抗がある人や、学業以外に専念したいことがある人にとって非常に便利なシステムです。
■通信制高校という選択
大学進学を志望する男子生徒(3年)は、「ここはいつ来ても良いし、自分のタイミングで学べます。高校を選ぶなら通信制のほうがいいかなと思ってここにしました。中学ではみんなが同じ授業のもとで着々と進んでいくのですが、それについていけないことがありました。だから自分のレベルに合わせてゆっくり勉強したいと思って。」と、通信制高校に入学した理由を教えてくれました。
全日制が毎日通学するのに対して、通信制は基本的にその必要がありません。自分のペースで指定された科目のレポートを提出し、年に一度のスクーリング(通学学習)に参加すれば3年間で卒業することができます。自分のペースを大切にしながら学べるため、これまでの学生生活でついていけなかったことまで戻って学び直しが可能です。
同校に入って良かったことはあるか聞きました。男子生徒は「先生がみんな優しい。一人一人の個性や学力に合った方法で教えてくれるのですごく助かりました。ここに入って良かったと思うことは何回もあります。」と答えてくれました。自分のペースを大事にできることで、充実した高校生活が送れているようです。
「一般的な学校の教室で授業を受けるのがしんどい生徒、大人数が苦手な生徒、周囲からの目線が人よりも気になる生徒とか、自分のペースっていうのをすごく大事にしたい生徒が多く入学しています」。そう話してくれたのは京都キャンパスの教務主任の柴野仁美先生。
一般的な学校が自分に適した環境ではない生徒にとって、通信制高校は大事な進路先になっていることがわかります。また、学校での生活に重きを置かない人が多いのが特徴です。勉強以外の活動に専念したい生徒、大学受験に向けて外部で勉強に専念したい生徒、アルバイトを頑張りたい生徒もいます。多様な目的に応えられる柔軟な場所であることがわかります。
全日制高校からの転校や編入を経た生徒が多いのも特徴です。おおぞら高校広報によると、昨年度の入学者数を転編入学者と中学から直接の入学者で比較すると2:3の割合。同校の5人のうち2人が転編入を経ていることになります。5年前は3:2だったことを考えると、中学生から通信制高校に行くという選択は、以前よりも当たり前になりつつあることが伺えます。
■通信制でもリアルは大事
通信制高校は特性上、リアルなコミュニケーションの機会が少なくなりがちです。そんな中でも、人とのつながりを作り出すために様々なカリキュラムが用意されています。
同校では午前中に授業が終わりますが、午後から「みらいの架け橋レッスン®」と呼ばれる様々な体験プログラムを実施。スポーツや音楽活動、ゲームや語学、プログラミングなど多岐にわたります。体験を通して自分の「好き」を見つけるだけでなく、生徒同士のコミュニケーションの場としても機能しています。どれも基本的には自由参加制。まるで大学のサークルのように気軽に楽しみながら、体験を重ねられる場所があるのは、全日制高校には無い特徴かもしれません。
年に一度の屋久島スクーリングでは、全国のキャンパスから生徒が集まって一緒に授業を受けるだけでなく、島の自然を活かした体験学習も用意されます。さながら修学旅行のようです。中には屋久島でのスクーリングが入学の決め手になった生徒も。
■人間関係の構築、少しだけ高い壁
「正直やっぱり友達はできにくいかなって思います。久しぶりに学校に登校したら、既にグループができていた。輪に入りにくいと感じた経験は結構ありますね。」(3年男子)
「毎日登校していたらできるかもしれません。家で授業を受けていると、人と会話する機会がない。学校に来ている人たちは、来ている人たち同士でグループ作る。できにくいか、できやすいかって言われると、何とも言えない感じですね。」(2年女子)
授業後の「みらいの架け橋レッスン®」で友達ができる機会はあるようですが、全日制と比べると、登校に強制力が無いためか、人間関係の構築へのハードルの高さは否定できないようです。
ただ、先生は「普段だったら交わらないタイプの生徒たちが普通に話している。」と教室での様子に驚きがあったことを話してくれました。大人しい生徒と金髪の生徒、「オタク」な生徒と「陽キャ」な生徒。普段であれば異なるコミュニティに属しているはずの生徒同士が教室で当たり前のように会話している様子は、非常に新鮮だったといいます。教室での授業の参加だけでなく、スクーリングや「みらいの架け橋レッスン®」を通して、思わぬ交友関係が広がっていることもあるそうです。
■全日制の当たり前は非日常
生徒たちは時々、全日制高校を少し羨ましく思うこともあるようです。
「やはり全日制高校は文化祭とか体育祭でワイワイできる。そこにちょっと憧れる気持ちはありますね。」(2年女子)
「全日制高校は体育館や実験室がある。体育の実践や理科の実験はここではないので、授業を受けるだけになってしまう。どうしても実際に目で見てわかる部分が少ないところはありますね。」(3年男子)
一般的な学校では当たり前の行事や光景が、通信制には無いことがあります。通学や実技が必須ではない分、高校生活の中での学びの一部が不足している点はあるようです。一般的な学校で授業を受けることが難しい生徒が多い特性上、集団生活に馴染みにくい人も多いのが現状です。そのため、一人一人に合わせた学習ができる強みを残しつつ、不足する学びを充実させるためには、更なる試行錯誤が必要かもしれません。
後編では通信制高校の持つ「自由」の難しさについて考えます。
参考記事
日本経済新聞(2020年8月26日)「通信制高校、初の20万人、前年比1万人増、小中学生は最少に。」
参考資料
文部科学省初等中等教育局「高等学校通信教育の現状について(令和2年1月15日)」:https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20200114-mxt_koukou02-000004042_4.pdf
おおぞら高校HP:https://www.ohzora.net/