広がる「リテールメディア」 多様化する広告  

これはファミリーマートが一部店舗内に設置している大型電子看板「FamilyMartVision(ファミリーマートビジョン)」です。全国に1万5000以上ある店舗のうち、すでに約3000店に導入されています。見たことのある方も多いのではないでしょうか。

「リテールメディア」と呼ばれる、小売企業が展開する広告事業の一つです。小売業の強みである膨大な顧客データを活かし、自社のサイトやアプリ、実際の店舗で、購買層に直接届くように工夫された広告を載せます。つまり、広告を掲載する側だった小売業界が、広告を伝えるメディアとしての役割も担うようになるかもしれないのです。先行するアメリカでは、市場規模が26年には21年の3倍にあたる1000億ドル(約13兆5000億円)に達することが見込まれており、成長が期待されています。

日本はまだ黎明期ですが、活用に乗り出している企業はほかにもあります。セブンイレブンではリテールメディア推進部を立ち上げ、主にアプリ内広告の活用に乗り出しています。「マツモトキヨシ」「ココカラファイン」などのドラックストアを展開するマツキヨココカラ&カンパニーは、16年から取り組み始めたリテールメディア事業の広告収入が22年度には当初の14倍に増えるなど、今後も成長が見込めそうです。

筆者が特に注目したのが、冒頭にも挙げた「FamilyMartVision」や、マクドナルドで見るような店内広告です。それ自体はそれほど珍しいものではありませんが、それが動画となると話が別です。書店でアルバイトをしており、レジ裏には常に新刊のポスターを貼っているのですが、ほとんど見られていないのを肌で感じます。やはり、人は動いているものや音の出るものに注意をひかれるのでしょう。

また、「FamilyMartVision」では、普段テレビで見る広告以外にも、横長のディスプレイを活かした専用のコマーシャルも放映されていました。内容のオリジナリティも関心を持たせるのに一役買っています。実際に、ディスプレイ設置店ではプロモーションした商品の購入が平均で2割、最高で7割も伸びたといいます。

動画広告としてまず思い浮かぶのは、テレビCMやYouTubeの広告でしょう。その視聴率は、テレビは多くても人口の10%ほど、YouTubeはトップユーチューバーで数パーセントほどです。

一方、全国のファミリーマートには、毎日1500万人以上が訪れていると言います。実際の宣伝効果の大小はさておき、視界に入る可能性を単純比較すれば、コンビニ側に軍配が上がる時代になったのです。今後の広告事業は、人を集めることができる場所やサービスを中心に、マスメディア以外にも広がっていきそうです。

広告は、私達に便利な商品を提案してくれるなどのプラスの面と、購買意欲を過剰に掻き立てられるなどのマイナスの両面があります。広告の形とその媒体はどんどんと変わっていき、ときには広告かどうか見分けがつかないことも増えそうです。広告があふれる現代。それらを取捨選択し吟味する力がますます重要になることでしょう。

 

 

参考記事:

・17日付 マツキヨココカラ、広告会社やります お宝の購買履歴活用 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

・18日付 「リテールメディア」米で先行 26年に13兆円市場 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

・2022年12月15日付 セブンイレブン、広告事業参入 1900万人登録自社アプリに掲載 – 日本経済新聞 (nikkei.com)

参考資料:

店舗数|会社案内|ファミリーマート (family.co.jp)

・ダイヤモンド社発行・「ダイヤモンド・チェーンストア2022年10月15日号」