5月16日は10日からの愛鳥週間の最終日です。バードウィークとも呼ばれ、野鳥の愛護を目的として1950年に制定されました。野鳥を大切にすることは、もちろん大事です。しかし目を向けるべき場所は本当に「野鳥」だけなのでしょうか。
今回は鳥や小動物の保護を行う藤沢市のNPOを訪ねさせていただきました。
「ことりのおうち」のはじまりと活動のきっかけ
理事長の髙見広海(たかみ・ひろうみ)さんによると始まりは8年前のこと。
経営していたホームセンターをたたむにあたって、ただやめるのも悔しかった高見さんは、当時流行していたフクロウカフェを参考に、神奈川県に無かったインコカフェをスタートしたそうです。
この時点では、小鳥・小動物を中心とした保護活動までは考えていなかったそう。しかし、仕入れ先の問屋でカフェの鳥を選んでいるとき、「選ばれなかった子達はどうなるんだろう」と違和感を覚えるようになっていたと語ります。
「自分は動物のおかげでご飯をたべさせてもらっているのに、商品にならない子が行き場をなくしているというのは違うのではないか。どうにかして日の目を浴びさせてやりたい」
この思いが高見さんを保護活動に駆り立てるきっかけとなったと言います。そして、そこから5年ほど保護活動を続け、昨年2022年にはNPO法人となりました。
バードアニマルレスキューの活動について
バードアニマルレスキューはことりのおうちが手掛ける鳥や小動物を中心とした保護活動です。「1日、1分1秒でも愛を感じて生涯を全うしてもらいたい」。そんな思いが活動を続ける原動力になっています。
ことりのおうちに運び込まれる理由は多種多様です。一般家庭では「引っ越しするので飼えなくなった」「飼い主が年を取った」などが多いのですが、中には「うるさいから」「糞をするから」など、飼い主の責任を考えない勝手な理由から手放そうとする人もいるそうです。
昨年は350羽ほど持ち込まれ、約200羽が新たな家族の元へと巣立っていきました。数多くの保護活動に携わってきた高見さんが鮮明に覚えているのは、とあるコザクラインコの飼い主だといいます。
「ある日、50代頃の夫婦が『うるさいから』という理由で4羽をお店に運んできたんです。そんな理由で手放す人は、その後飼わない人が多い。だから籠ごと置いていくんです。それで『籠をどうしますか」って聞くと、『いい子がいたらつれて帰りたいんですけど』って言われて・・・」
夫婦には「元気な子しかいないので」と伝え帰ってもらったそうですが、高見さんの心にはモヤモヤした思いが残り続けていました。衝撃を受けたのはその半年後。同じ夫婦が6羽のコザクラインコを連れて「可愛くて飼ったけど、やっぱりうるさいから」と再びお店を訪ねてきたそうです。
「ネット上でも書いたんですが、色んな人からは、『指導してください』と言われることが多いです。だけど、怒られたり、注意されたりしたら、手放そうとする人が行きたくなくなってしまう。そうしたら、逃がしてしまえばいいとなってしまうかもしれない。うちの目的は『人間を正すのではなく、鳥を助けるため』なので、黙って引き取る、飼わないほうがいいとか言うのではなく、『うちにたどりついて良かった』という考えでやっています」
思いと現実との葛藤
100をこえる鳥や小動物を保護するための運営費は、月々15万円から18万円ほど。家賃・光熱費・餌代といった人件費を含まない維持管理のコストだけで、この金額だと言います。現在はクラウドファンディングや日々の募金でどうにか補っているそうですが、2年前までは施設費・暖房費を賄うため、夜中のアルバイトまでしていたそうです。
また決まったボランティアもほとんどおらず、協力してくれる病院も犬や猫と比べて少ないため、鳥や小動物の管理状態は最低限のレベルになってしまう現状があると言います。
「やはり自分達の仕事がおろそかになってしまうと、保護活動ができなくなってしまうので、そこにいろいろな葛藤があるという感じなんです。労力やお金、本当に多方面での色々な協力が必要です。ぜひ一緒にやってもらえたらなと思ってます」
里親として訪ねる方の中には、譲り渡す際の価格を伝えると「里親でもこんなに高いんですね。諦めます」という方もいるそうです。しかし、無償を前提とした活動でも、生きている命を保護するにはお金がかかる現実があります。
ヒナは挿し餌やヒーターがなければ死んでしまう。成鳥でも温度に気をつけなければ病気になってしまう。
「次の家族と鳥達がめぐり合うためにも、最低限の環境は整えてあげたい」。だからこそ里親の方にも最低水準の負担を求めているそうです。
鳥を飼おうとしている人、飼っている人に向けて
最後に高見さんから鳥を飼おうとしている人、飼っている人にメッセージを頂きました。
【鳥を飼おうとしている人に向けて】
「安易に飼わないでと言いたいです。セキセイインコでも10年くらい生きます。生き物なので病気をしますし、ウンチもします。飼うときは10年後までちゃんと面倒をみれるのかを考えてほしい」
「ヒナから飼いたい」という問い合わせも多いと言います。ですがヒナで飼うと挿し餌は1日3回。ヒーターも必須。お金も時間もかかります。そのことをしっかり考え、わからないことは聞いてほしいそうです。
【鳥を飼っている人に向けて】
「鳥を逃がしてしまう人を『ロスト』というんですが、本当に沢山います。羽を切ることを『クリッピング』というんですが、愛鳥家さんに反対する人が多い。『鳥の自由を奪う』というのは一理あると思います。ですが、人の物欲で飼っているという部分もあると思うので、切らないんだったら逃げないようにしないといけないと思います。逃げてしまえば、カラスにやられてしまう。それは飼い主が殺していることと同等だと思います」
慣れれば慣れるほど、事故が多くなるそうです。肩にとまっていることが当たり前の生活になると、気づかずに窓を開けてしまう、料理中に子供が出してしまい、油に入ってしまうといった事故も起きているそうです。事故の予防は大人が子供に教えないといけない。また大人も飼育の際に注意すべき点について学んでほしいと強く訴えかけていました。
最後に
里親として引き取ろうとする人の中には「病気ない子いませんか」と聞いてくる人もいると言います。ただ高見さんは「バードアニマルレスキューだと、病気があって、障害があって当たり前。『飼いたい』ではなく、どうか『目の前の命を幸せにしたい』、だから里親になりたいという人に託したい」と話していました。
もし自分や家族が病気だったときに「病気だからいらない」「病気だから育てない」という選択肢をする方はいないでしょう。ペットも家族と考えるならば、もっと自分ごととして、引き取った子がどんな一生を歩もうとも真摯に受け止める、それが「生き物を飼うことへの責任」なのだと取材を通し深く実感しました。
著者は恥ずかしながら、保健所にも引き取られた小鳥や小動物がいるということを知りませんでした。どうか「飼うのであればペットショップ以外にも選択肢がある」ことを知ってもらいたい。また「選ばれなかった鳥や小動物達の現状がある」ということを知り、「飼うことへの責任」を改めて考えていただければ幸いです。
今回取材を快く引き受けて下さった高見さん、また案内して下さった学生ボランティアの鳩貝潤(はとがい・じゅん)さん。お時間が無い中、丁寧にお話を聞かせていただき本当にありがとうございました。
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ことりのおうちではクラウドファンディングや募金を呼びかけています。活動を支援したい方は、是非こちらもチェックして見てください。(https://readyfor.jp/projects/kntorinoouti)
参考記事:
14日付 読売新聞朝刊(大阪) 27面「地域の野鳥 理解深めて 愛鳥週間ちなみ 四万十町で学習会=高知」