○大迫力の展示、未来志向の改修
今月6日、北海道庁旧本庁舎(赤れんが庁舎)の仮設見学施設が一般公開されました。
施設に入るとまず、庁舎のシンボルである「八角塔」の巨大な屋根が出迎えてくれました。高さ約6.5メートル、ポールも含めると約15メートルになる屋根は想像以上に大きく、広角レンズを使わなければ写真に納まりません。1階と2階は吹き抜けになっており、屋根を間近に眺めることができました。3階では、改修作業を窓越しに見ることができるほか、歴史や作業の過程などがパネルや動画で説明されていました。
改修の基本方針や工法などに関する展示が充実していたことから、この価値ある明治期の官庁建築を将来にわたって保護していこうとする未来志向の姿勢が窺われました。また、今回の改修では、断熱性を向上させることでCO₂の削減を目指すなど、環境への配慮もなされていると説明されていました。過去と未来の両方を尊重する姿勢は、文化財保護の今後を考えていくうえで非常に重要になってくるでしょう。
○後を絶たない文化財の火災
本来、見学施設は昨年10月に開業する予定でした。しかし、開業直前の10月3日深夜に、施設の3階で火災が発生したことから公開が延期されていました。幸いなことに、施設内に保管された屋根や隣接する庁舎に被害はありませんでしたが、消防車18台が出動するなど、現場は一時騒然となりました。出火原因は電気系統のトラブルか放火の可能性が指摘されましたが、特定されていません。
文化財が火災に見舞われる事例は、古くから後を絶ちません。
1949年1月26日には、法隆寺の金堂で火災が発生し、多くの国民に衝撃を与えました。この事件をきっかけに文化財の防火に関する意識が高まり、1955年に、毎年1月26日が「文化財防火デー」に定められたほどです。
2019年のパリ・ノートルダム大聖堂と沖縄・首里城を襲った大火も非常に衝撃的で、記憶されている方も多いことでしょう。この2件の火災を受け、文化庁は国宝・重要文化財の防火設備などの緊急状況調査を行い、「国宝・重要文化財(建造物)等の防火対策ガイドライン」などの指針を作るなど、対策を強化していました。こうした矢先に、今回の火災が起きたことは、きわめて憂慮すべき事態であるといえるでしょう。道には、再発防止に万全を期してもらいたいものです。
○教訓を広く社会に共有せよ
施設の展示は非常に興味深いものとなっていましたが、今回の火災について触れられていなかった点は非常に残念でした。道のホームページにある「北海道庁旧本庁舎(赤れんが庁舎)改修事業について」というページ内でも、火災への言及はわずかです。道は、火災関連の情報を広く社会に示し、文化財保護への認識を高める役割を積極的に担ってもらいたいです。
参考記事:
5月7日付 読売新聞朝刊(東京)23面「赤れんが見学施設公開 庁舎改修の様子 窓越しに=北海道」
5月2日付 読売新聞朝刊(東京)20面「『八角塔』今だけ眼下に 6日から一般公開 赤れんが・仮設見学施設=北海道」
4月18日付 北海道新聞朝刊(全道)28面「赤れんが見学施設 出火原因分からず」
2022年10月4日付 読売新聞朝刊(東京)31面「赤れんがの脇 見学施設出火 国重文の庁舎被害なし=北海道」
2022年10月3日付 北海道新聞夕刊(全道)7面「赤れんが隣接施設で火災 道庁 保管の『八角塔』無事」
2019年10月31日付 読売新聞夕刊(西部)1面「首里城 全焼 未明出火 正殿など7棟焼損」
2019年4月16日付 読売新聞夕刊(大阪)10面「パリの象徴 炎上 ノートルダム大聖堂 市民悲嘆『生活の一部』」
参考資料: