514
これは2022年の小中高生の自殺者の数です。高校生が7割近くを占め354人、中学生は143人、小学生は17人で、統計のある1980年以来で最多となりました。
「514」は決して単なる数字ではありません。それぞれに家族や同級生がいて、過ごしてきた時間があったはずです。苦しみ悩む1人ひとりを見ることなく、数字として捉えてしまうことには大きな抵抗を覚えます。彼らが死を選ぶ背景にあるものは何でしょうか。
自殺の多くは多様かつ複合的な原因や背景を有しており、様々な要因が連鎖する中で起きると考えられています。例えば、生活苦といった経済・生活問題、親子関係の不和に代表される家庭問題などが深刻化する中でうつ病などの健康問題が生じ、死を選択する場合です。
小中高生の自殺の原因や動機で最も多かったのは「学業不振」(83人)。次に「進路に関する悩み」(60人)、「病気の悩み・影響(その他の精神疾患)」(56人)、「学友との不和(いじめ以外)」(49人)、「うつ病の悩み・影響」(44人)、「親子関係の不和」(40人)と続きました。
これらは遺書など生前の言動を裏付ける資料に加え、家族の証言などから推定された自殺の原因・動機を、亡くなった方1人につき4つまで挙げたものです。これらが原因や動機の全てではないでしょうが、いじめを苦にした事件の報道を目にすることが多い中で、学業不振や家庭内の不和が動機の上位にあることに驚くとともに、それらの悩みを解決するための支援策が不十分であると感じました。
とりわけ身近で相談相手になり得る家族との関係が良好でない場合は、誰にどうやって助けを求めればよいのでしょうか。
支援策の一つとして、自治体や行政によるSNSを通じての相談窓口の設置が始まっています。2017年9月に長野県の「ひとりで悩まないで@長野」が、同年11月からは滋賀県大津市の「おおつっこ相談LINE」が期間限定で実施されました。チャットでの相談受付は、匿名性が高いため個人的なことを話しやすくさせる期待がある一方で、相談者と相談員の双方とも相手の声のトーンや表情、姿勢などの微妙な変化を感じ取りにくくなります。また相談者にとっては、誰かに話を聞いてもらい受け止めてもらったという実感が弱まる可能性があります。
しかし、現代では多くの若者がSNSを使っており、利用率は6~12歳では36.8%、13~19歳では90.7%にのぼります(令和4年)。若者のコミュニケーションの実態に応じた援助の機会を設けることで、対面の相談にはないメリットを生み出せると考えます。
大型連休最終日となりました。
警察庁の統計によると、過去10年のうち8年で3月と5月が自殺者数の1、2番を占めています。国は3月を「自殺対策強化月間」と位置づけ啓発活動を展開するとともに、相談支援体制を拡充しました。ただ筆者は、大型連休のなかで自分と他者の過ごし方を比べてしまったり、気温や環境の変化で体調を崩しやすかったりすることから、精神面でも不調に陥りやすい5月にも支援の手を緩めないことを訴えたいです。そして自分や周りの人の変化に気が付くことが必要だと思います。
支援を通じて、自殺の兆候を示すサインに気づき、声をかけ、話を聞き、必要な支援につなげる人を「ゲートキーパー」と呼ぶそうです。家族や友人、同僚など誰もがゲートキーパーとして、孤独に苦しむ人に手を差し伸べることができます。孤独はそれ自体でストレスになり得る上に、他のあらゆるストレスを高める悪化要因でもあるでしょう。
死にたいくらいの辛さを少しでも和らげられることができるなら、本当は生きたい。そう思ってもらえるのであれば、死を選ぶ背後に横たわる問題の解決に全力を注げる人間でありたいものです。
【相談したいときは ※一部抜粋】
自殺と向き合う 生き心地のよい社会のために | NHK福祉ポータル ハートネット
【参考記事】
1日付朝日新聞朝刊(東京13版)19面(教育)「子の悩み、聞いて、ねぎらって 小中高生の自殺、昨年最多514人」
https://digital.asahi.com/articles/DA3S15625079.html?iref=pc_ss_date_article
3日付読売新聞『門出の春 実は自殺者が年間最多…SOSのサイン、「命の門番」育成も』
https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20230503-OYO1T50008/
【参考文献】
「自死」と「自殺」2つの表現について|全国自死遺族総合支援センター (izoku-center.or.jp)
総務省|令和4年版 情報通信白書|データ集(第3章第8節) (soumu.go.jp)
杉原保史・宮田智基著「SNSカウンセリング入門 LINEによるいじめ・自殺予防相談の実態」、2020年、北大路書房
児島勇二著「いじめ・自殺はなぜなくならないのか ‐司法と教育現場の連携による問題解決へ」、明石書店、2022年
松本俊彦編著『もしも「死にたい」と言われたら 自殺リスクの評価と対応』中外医学社、2015年