ボイスメッセージは日本で流行るか 伝えられる情報が増加

大学の夏休みにタイに留学し、現地の高校生と友達になりました。コミュニケーションツールは主にInstagram。食事や風景、ペット、出かけた先のスナップなど、日常を共有したり、記録として残したりするのはもちろんですが、友人同士でメッセージを送り合えるツールでもあります。Instagramでダイレクトメッセージ、いわゆるDMを使用することがほとんどなかった筆者にとって、この体験は驚きに次ぐ驚きでした。

タイではイタリア人の留学生がスマートフォンに向かって話しかけるシーンが度々見られました。「何話してるの?」と聞くと、「文字を打つのが面倒くさいから、声でメッセージを送ってるの」。筆者が普段使うLINEでも同様の機能があることは知っていましたが、実際に使っているのを見たのはこれが初めて。さらに「いつもボイスメッセージでやり取りしてるの?」と聞くと、「イタリア語を忘れないためにもすごくいいし、相手の声で感情が伝わるから」となんだか嬉しそう。確かに、母国語を話す機会の少ない留学期間に、日常会話で言語を忘れないためには非常に有効なツールとなりうるでしょう。タイ人やフランス人の友だちも活用していました。

イタリアの友人とのInstagramでの会話。この13秒で、「待ち合わせに行けなくてごめん。やることたくさんあったの。水汲まないといけないし。私がいけない代わりに友達がいくわ」と伝えられる。かなりの情報量。(Instagramのスクリーンショット)

しかし、ここで疑問が一つ。ボイスメッセージを送る側は「送って終わり」ですが、受け取った側はそれを「聞」かなければなりません。いくら周りがしーんとしていても、ボイスメッセージを受け取るには何が何でも音を聞かなければならないのです。イタリア人の友達は耳にスマートフォンをあて、小さい音で相手の声を聞いていましたが、やり取りは頻繁です。それならば文字で送るか、電話をすればいいじゃないか、と思わず突っ込んだ筆者に対し、「電話は別の時間にするの。聞きたいときに再生しなおして声が聞けるっていいじゃない」「笑いをこらえるのもまた楽しいのよ」とにっこり。「そんな感覚、私にはなかった」と伝えました。一方で、彼女は文字でのやりとりもしていました。筆者へのメッセージも基本は声でしたが、「okk」「6 p.m?」などの短い確認は文字でした。他にも確認を取りたいもの、文字で記録しておきたいときはきちんと文章で送るようです。

短文でのやりとりは文字で行う。「ka」はタイ語で「です・ます」を表す。待ち合わせの時間が文字で残るのでイタリアの友人は文字を選択したようだ。(Instagramのスクリーンショット)

実際にボイスメッセージを送ってみると、まるで向き合って話しているかのような気分になります。無機質な文字よりも感情が伝わりやすいですし、送る側としてもどのスタンプを選ぶか、文末に「!」を付けようか、絵文字を付けようか、などと悩まずにすみます。さらに、歌やちょっとしたリズム、文字にすると硬くなることを伝えるのにも有効です。他にも日本語を学びたいタイの友人へのレッスンはこのボイスメッセージを活用しています。

若者の間でかなり浸透していたタイでは、どこでボイスメッセージを送っても、聞いても、周りの目が気になることはありません。けれども日本に戻ってからボイスメッセージを送るとなるとかなりハードルがあがります。試しに、日本の友人に送ってみると、「急にどうした?」と気味悪がられ、文字でのやりとりに戻しました。

Instagramでは最大1分、LINEでは最大30分と録音時間はかなり長め。アナウンサーが1分に300文字を目安に話していると言われているので、1分もあれば大概のことは伝えられそうです。実際に300文字をスマートフォンで打ってみると2分30秒。日常会話のスピードで読んでみると41秒。かなりの時間短縮になります。やり直しもできますが、ほとんどが一発録り。ちょっと噛んだり、「やっぱり今のなし!」とメッセージの最後に残されていたり、日常会話のようで楽しくなります。ただ、聞き手としては1分間ずっと聞いていなければならず、文字を読むよりも時間はかかります。

「電車内ではお静かに」という文化も浸透している日本ではそう簡単にボイスメッセージが流行るとは思えません。しかし、声で伝えたほうが速い、ときには特別なメッセージを声で届けたい。そんなときにボイスメッセージは威力を発揮するのかもしれません。

 

参考記事:

6日付 朝日新聞朝刊(福岡13版)文化19面 「俗語表現 ネット通じ急拡散」