筆者の趣味の一つに、映画鑑賞があります。作品を観ることで、楽しい気分になったり、考えさせられたり、人生がちょっと豊かになる気がします。
好きな映画は?と考えてまず頭に浮かんだのは『ヘアスプレー』という作品でした。2007年に上映されたミュージカル映画で、始終歌いまくり踊り抜くハッピー・エンターテイメントです。舞台は、1962年の米国ボルティモア。トレイシーというビッグサイズの白人の女の子が、その明るさと天真爛漫さを武器に、ダンス番組のオーディションに挑みます。
楽しくてエネルギッシュな作品ですが、深いテーマは決して軽いものではありません。至るところで当然のように蔓延る黒人差別、固定化された女性像とジェンダー格差、デモ隊と警察の衝突、保守的な親世代との対立……。作品世界がパステルカラーとポップミュージックで底抜けに明るいからこそ、1960年代のアメリカが抱えた対立と葛藤が逆説的に浮かび上がってきます。それでも、深刻な問題を全て跳ね除けるような勢いでずんずん前に進んでいく主人公を見ていると、自分らしくいられる強さってこういうことなんだなと、明日を生きる元気をもらえます。
最近見た作品で良かったのは、『ストーリ・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』でしょうか。筆者は、エマ・ワトソンとティモシー・シャラメが見たくてDVDを借りてきたのですが、それ以上にストーリーの作り込みとメッセージ性に打たれてしまいました。『若草物語』をもとに、非常に優れたリメイク作品に仕上がっています。
舞台は、南北戦争時代のアメリカ北部。主人公の4人姉妹が、それぞれ女性として生きる中で壁にぶつかり、異なる解決策を見出していく過程を描きます。作品の魅力は、「女性」という概念が非常に社会的なものであることをさらっと暴きつつ、女性を巡る社会の矛盾に大胆に切り込むところでしょう。しかも、特定の答えを用意せず、観賞後に誰かと話したくさせるところに、製作者の力量を感じます。
なぜこの2本が今日のおすすめなのか。それは、女性の生き方とジェンダー平等について強いメッセージを残した作品だと思うからです。
今月13日、2022年版の「ジェンダーギャップ報告書」が発表されました。ジェンダーギャップ指数(GII)は、国ごとのジェンダー平等の在り方を示し、政治参画、経済参画、教育、健康の4項目から算出されます。作成元の世界経済フォーラムによると、日本は、146カ国中116位。前年度と比べ4ランク上がったものの、主要7カ国を始めとする多くの先進国グループの中で遅れをとっています。各社の紙面には、夫婦別姓やセクシュアルハラスメントなど日本のジェンダー平等の不徹底をめぐる指摘が散見されました。
日本のジェンダー平等を実現するには、まだまだ議論が足りていません。国会や学会での討論もそうですが、日常生活レベルの、社会問題に関する家族や友人との気軽なおしゃべりが十分ではないように感じます。不平等を感じたときに語り合える環境を整えることは、ジェンダー平等だけでなくあらゆるマイノリティの権利を守るために大切なことです。また、普段から気兼ねなく社会問題について話していると、何かあった時に助けを求めやすくなると思います。あの人なら話しても大丈夫。あのコミュニティは、私の力になってくれる。そう思える先があることは、立派なエンパワーメントです。個人を強くするだけでなく、多くの女性が自分らしくいられる力を得れば社会の意識も変わってくるはずです。
映画は勇気や元気を与えてくれますし、作品をきっかけに難しい問題について誰かと分かり合えることがあります。ぜひ今回紹介した作品を観て、誰かと話してみてください。
参考記事
27日付 朝日新聞朝刊 (北海道13版)4面(総合)「選択的夫婦別姓 待ったなし」
参考資料
Netflix 「ストーリー・オブ・マイライフ – わたしの若草物語」詳細(閲覧日:2022年7月28日)
Hair Spray (DVD) Product description. Amazon.co.jpより(閲覧日:2022年7月28日)
内閣府 男女共同参画局 「GII ジェンダー・ギャップ指数」https://www.gender.go.jp/international/int_syogaikoku/int_shihyo/index.html(閲覧日:2022年7月28日)