「すごく便利。確定申告もパパっとできる」(70代・男性)
「やっぱり管理されるのが気持ち悪いって思っちゃう」(70代・女性)
さまざまな声が上がるのは、現在国が普及を目指すマイナンバーカードです。国民一人ひとりに12桁の個人番号であるマイナンバー(個人番号)が記載された、顔写真付きのカードです。プラスチック製のICチップが埋め込まれており、氏名、住所、生年月日、性別も印刷されています。国民の約42%が所持しているそうです。
カードを使うことで、コンビニなどで住民票や印鑑登録証明書などの公的証明書を取ることができたり、行政手続きのオンライン申請ができたりするなど、生活の利便性が見込めることがメリットとして挙げられています。先ほどの70歳男性が話してくれたのは、国税庁のホームページにアクセスし、確定申告の手続きをオンラインでするe-Taxというものです。通常の確定申告が申告書に直接記入し提出をするのに対し、マイナンバーカードを使えば、簡単で時間もかからず、税務署に行かなくて済むため、その便利さを歓迎する声が上がっています。というのも、e-Taxへログインすることで、確定申告に必要な個人情報をわざわざ記入しなくてもよくなるからです。この点では国民の利便性だけでなく、行政の効率化も見込まれるでしょう。
一方で70代の女性のように、番号やカードで個人情報が管理されることを「気持ち悪い」、「嫌だ」と思う方も多いようです。この女性は「情報漏洩が怖い」というセキュリティ面での懸念に加え、「今後、口座や消費行動とも結び付けられたら、生活を監視されるようだ」と利用方法や将来の範囲拡大に疑問を持っていました。
6日付の朝日新聞では「今後、想定されるマイナンバーの利活用法のうち、賛成するものと反対するものを選んでください(3つまで)」という調査の結果を掲載しています。賛成が多かったものは、「安否確認や避難者情報の管理、罹災証明の発行など、災害時の活用」「所得や税の情報が必要な福祉や行政サービスの正確化、迅速化」など。反対意見が目立ったのは「預貯金口座とのひもづけの必須化」「地元商店街での買い物での割引をうけられるなど日常の消費活動での活用」「不動産取引や通販など民間オンライン取引でのさらなる活用」が並びました。
この結果を見ると、どうしても矛盾しているように思えてしまいます。所得や税の情報が必要な福祉や行政サービスの正確化、迅速化を求めている一方で、預貯金口座と繋げられることには反対というのは、マイナンバーをうまく活用できない一つの要因でもあると感じます。
お隣の韓国では「住民登録番号」が法制化・制度化され、台湾では「全民健保ICカード」が使われるなど、日本のマイナンバーやカードに似た仕組みが導入されています。実際、台湾では全民健保のネットワークシステムを利用した医療インフラが築かれ、コロナ対応が迅速に進んだという話もあります。
この普及の違いについて、朝日新聞では国学院大専任講師の羅芝賢さんの話を紹介していました。プライバシーは国を問わず普遍的な価値だとしたうえで、「日本の人々はすでに国家に包括され、様々な行政サービスを受けている状態」なのにマイナンバーカードを普及させようとしたことが、取得や利用が広がらない理由だと述べていました。韓国では食料配給などで、まず身分証明書による住民管理が受け入れられるようになり、その後、公的医療保険などの行政サービスに拡大しました。管理が先か、行政サービスが先かで導入への姿勢に差が見られるという歴史的背景は知っておく必要がありそうです。
台湾の友人は、「病院に行けばICカードをかざす。どこの病院に行っても自分のデータを引き継げるから便利だよ」と話しており、「一枚でなんでもできる」というカードをケースにいれて持ち運んでいるのには、少し驚かされました。単純に「よそがしているから日本も…」というわけにはいかなさそうです。
現在はマイナンバーカードを持つ義務はありません。正直、今すぐに手に入れるべきか義務化されるまで待つべきか、筆者に甲乙はつけられません。あまりにも国から発信されるデメリットに関する情報量が少なく、良し悪しを吟味できないからです。今必要なのは、メリットの羅列ではなく、デメリットとも向き合い、カードが普及した将来の日本社会を見通せる情報なのかもしれません。
参考記事:
6日付 朝日新聞朝刊(福岡13版)7面 フォーラム「マイナンバーとカードの未来」
参考資料: