「糸島は海だけじゃない!」商店街の見届け人

 11年間、商店街の変化を見守ってきた「糸島くらし×ここのき」

扉を開けるとふわっと漂うコーヒーの香り。福岡県糸島市にある商店街、唐津街道前原宿の一角にある創業11年の「糸島くらし×ここのき」です。「作り手」の思いをぎゅっと詰め込んだ、ここでしか見ることのできない手作りの商品がたくさん並んでいます。糸島の杉やヒノキを使ったお皿や、糸島市に工房を構える工房兼ギャラリー「醇窯(じゅんよう)」の土鍋、地元で活躍する作家の絵本、手作りのクッキー、無農薬の地場野菜など様々です。珈琲店も入り、ゆっくりとくつろげるスペースが用意されていました。

「糸島は海だけじゃない。食とクラフトの魅力もたくさんある」と語ってくれたのは、店主の野口智美さんと千々岩哲郎さん。木が大好きな野口さんは「糸島の木を売りたい」と思ったことからお店をスタートしました。開店した当時、「作り手」は10人ほどだったのが、現在は70人ほどが様々な商品を出品しています。作り手や出品される商品をすべて確認する千々岩さんは「作り手一人一人を大切にしたい。商品を通して作り手の顔が見えるようにしている」と話してくれました。

■前原は通過地点、商店街の課題

糸島市にはサンセットロードや二見ヶ浦の夫婦岩など、海にまつわる人気のインスタ映え観光地が数多くあります。これらの有名なスポットはほとんどが海沿いです。一方で、糸島くらし×ここのきが店を構えるのは、筑前前原駅の駅前。ここは江戸時代に唐津街道の宿場町として栄えた土地でした。

昔ながらのお店が立ち並ぶ商店街なのですが、現在はほとんどがシャッターを下ろしています。九州や沖縄のどこでも見られる光景です。市内に住む女性は「商店街は知ってるけど、見るところないし」と興味なさそう。さらに「前原商店街なんて知らなかった。」と地元なのに商店街の存在を知らない人さえいました。筆者の自宅から自転車で20分ほどのところにあるのですが、しっかりと散策したのはコロナ禍で巣ごもり生活になった大学2年生の冬になってから。近隣の九州大学の学生にとってもあまり馴染みのない場所です。

千々岩さんは「せっかく糸島に観光に来たのに、前原には何もないからといって帰ってしまうのはもったいない。地元の人にももっと来てほしい」と思っていたそうです。福岡空港から来た観光客は筑前前原駅からのバスに乗り、海沿いまで行くことが多いのですが、バスは1時間に1、2本しか走っていません。「待ち時間にはぜひ商店街を観光してもらいたいけど、10年ほど前はほとんど何もなかった」。

今の姿しか知らない筆者にとっては、まだまだシャッター街なのですが、10年以上、商店街と共に成長してきた糸島くらし×ここのきから見ると大きな変化が起きたそうです。

■せっかく来たならいい出会いを

千々岩さんは「商店街に人が寄らない問題」を解決するため、「糸島くらし×ここのき」の他2店舗と協力し、「前原歩帖(まえばるほちょう)」を作りました。

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毎年お店が増え、増刷のたびに手を加えてきたマップ。

裏には見どころや歩き方がまとめられています

「バス待ちの時間を楽しんでもらいたい。せっかく前原まで来てくれたのだからいい出会いにしてほしい」と思ったことが取り組みのきっかけだそうです。マップは商店街の飲食店や旅館などに置かれており、ノープランで遊びに来た人も迷わずに楽しめます。

■糸島くらし×ここのきの成長

お店を一本の木に見立てて、糸島くらし×ここのきの歴史を記録したのがこちらの絵。

糸島で活躍する絵本作家が描いた糸島くらし×ここのきの記録。

左端が開店時の野口さん

種を植えるところから始まった店ですが、現在は商店街の中でも存在感が増しています。一階だけで販売していますが、将来は二階で大きな木製家具を扱いたいそうです。コロナ禍で山から木を切る人が減ったため、計画が滞っているものの、1年後を目標に奮闘中です。今までは「商店街」を盛り上げることに力を注いできましたが、これからは「各店舗の成長」がキーワード。どんなお店が生まれるのか、商店街での役割はどのように変わっていくのか。筆者はあと1年半、学生生活を送るなかで、糸島くらし×ここのきを通して前原商店街の成長を追いたいと思います。

人とのつながりがたくさんできた糸島くらし×ここのき。

一人一人にモデルがいることが魅力的です

 

参考記事:

朝日新聞デジタル 2021年7月1日「出店4、5年待ちの通りがシャッター街に 大逆風の沖縄」

西日本新聞me 2020年10月29日「福岡・糸島の秋にクラフト体験 木工、革小物…多彩な作家が創作活動」

参考資料:

糸島くらし×ここのき ホームページ

糸島市観光協会公式ホームページ いこいこ糸島