発砲に対するミャンマー軍の「慣れ」

左手には金色の仏像があり、近くには仏教の教えが書かれた張り紙。前方には赤と黄色を基調とした派手な装飾の店があって、何やら嗅いだことのない香辛料の香りが・・。

ここは、福岡市博多区にある「吉塚市場 リトルアジアマーケット」です。シャッターばかり目立っていた吉塚商店街をリニューアルして昨年12月にオープンしました。食材を取り扱う小売店が立ち並ぶほか、韓国や中国、ベトナムやカンボジアなどさまざまな国の料理のレストランがあります。

▲リトルアジアマーケットの様子。仏教色が強く、異国情緒あふれる。2021年4月17日筆者撮影。

吉塚エリアは福岡市の中でも外国人が多く住む地域です。コロナ禍のために母国に帰りにくくなった外国人は、慣れ親しんだ味を求めてこの市場のレストランに来るようです。私が立ち寄ったタイ料理レストランでも、お客さんがとても満足そうに食事をしていました。自分に染み付いた味を求める気持ち、とてもよく分かります。私は以前、アメリカを旅行中にサンフランシスコ郊外の日本食レストランに入ったことがあり、そこで食べた豚骨ラーメンは涙が出るほどおいしかった。やはり、慣れているものが一番だと思いました。

 

ただ、世の中には好ましい「慣れ」もあれば、好ましくない「慣れ」もあります。16日付の読売新聞には、

ミャンマー軍は世界で最も長く実戦従事している軍隊だと言われている。1948年の独立以来、少数民族が支配する辺境地域で掃討作戦を続けてきたなかで、民間人への発砲や残虐行為が習慣化したとの見方が強い。

とありました。確かにミャンマーでの民主化運動は、昨年の香港の運動と比べると、民間人の死者数が桁違いに多く、その原因をミャンマー軍の性格に見出すことができそうです。

同じことを何度も繰り返すことでその行為に対する抵抗感がなくなる「慣れ」。この例として、ナチスドイツのアウシュビッツ強制収容所で虐殺に加担させられていたゾンダーコマンドのことが思い浮かんできました。ゾンダーコマンドとは、ユダヤ人をガス室へ誘導したり死体を処理したりすることを命じられていたユダヤ人やソビエト軍の捕虜のことです。

その一人、ポーランド出身の当時20代の男性は手記で、

私はごく普通の人間だ。根性が腐った人間でも、残忍な人間でもない。そんな私がこの任務に慣れていく。誰が泣き叫ぼうが、毎日のことだと無関心に傍観する。

と述べており、普通の人が虐殺に加担することに慣れていった様子が分かります。

ミャンマー軍もゾンダーコマンドも人殺しを犯しており、それは健常者であればかなりの抵抗感を抱くはずの行為です。しかし、行為の反復というプロセスを踏むことで、その抵抗感がなくなってしまう人間の恐ろしい特性が分かります。そして、「慣れ」は他の人と共有され、当たり前となって、誰もそれを疑わなくなるのだと思います。組織に「染まる」とはまさにこのことを指します。

民主化運動に対するミャンマー軍の振る舞いは極めて残虐ですが、それは個々の兵士や軍人が原因というよりも、歴史によって形成された人殺しへの「慣れ」が組織内で当たり前となった結果だと思います。ミャンマー軍が内部で共有されている当たり前に疑いを持って一つ一つの銃弾の重みを考え直し、軽はずみの発砲を止める日は来るのでしょうか。

 

 

参考記事:

16日付 読売新聞朝刊(福岡13版)3面(総合)「国民を殺戮する軍の異常さ」

 

参考資料:

福岡で”海外気分が味わえる”といま話題!異国情緒感たっぷり「吉塚市場 リトルアジアマーケット」

NHKスペシャル「アウシュビッツ 死者たちの告白」、NHK 、 2020年8月16日放送