「多様性への配慮」とは

東京スカイツリーに、イスラム教徒向けの礼拝用スペースが新しく設置されたという記事を目にした。訪日外国人観光客からの要望を受けて作られたもので、天井にイスラム教の聖地メッカの方角を示す印がつけられた約8平方メートルの部屋が二つ用意されたという。

さまざまな人に寛容な社会を目指して、国内でもこうした「多様性」に配慮した取り組みが増えていると感じる。また就活生として多くの企業を研究していると、性別、年齢、国籍などが異なる人々が互いに融合しあいながら活躍できる環境づくりを目指す「ダイバーシティ&インクルージョン」を理念に掲げている会社が多いことに気づく。社会への影響力の大きい企業も多様性への配慮に乗り出しているのは高く評価されるべきだと思う。

しかしそれと同時に、多様性への配慮がいきわたった社会への道のりはまだまだ長い、とも思う。

新型コロナウイルスの流行が拡大する直前の2020年2月にアメリカのサンフランシスコに旅行したときのことだ。訪れる先々に三つのトイレがあるのが印象的だった。「Men(男性用)」「Women(女性用)」「Everybody(すべての人用)」だ。この「Everybody」は、日本で言う男女兼用トイレとは少し違う。単に「男女兼用」ではく、男性・女性の枠に当てはまらないジェンダーの人も含めた、多様性に配慮した表現だな、と感心した覚えがある。

日本でも、多様な宗教の人に配慮した礼拝室やジェンダーに関係なく使えるトイレはもちろん、外国人にもわかりやすいように各国の言語に対応したサインや翻訳機能、ベジタリアンやビーガンの人が楽しめる飲食店など、もっともっと増えていい。そして、そうした取り組みは外国人観光客が訪れる場所だけではなく、日本各地のあらゆる場所で目にするようになって初めて「多様性への配慮」ができたと言えるのではないだろうか。なぜなら国籍やジェンダーだけではなく、身体障がい者、高齢者、子育て中の親など、周囲を見ただけでも「多様性」は色々な形で存在するからだ。

言葉ばかり先走りする社会では、真に多様性への配慮ができているとは言えない。誰もが生きやすい社会にするには、国や企業、そして個々人の取り組みもさらに必要になってくるだろう。

多様性が尊重される社会はどんな姿なのだろうか。表面上の変化ばかりに目を奪われることなく、もう一度考えてみたい。

参考記事:

11日付 読売新聞オンライン 「スカイツリーに礼拝スペース…イスラム教徒『安心して遊びに来られる』」