まだ行ったことのない、近所の飲食店のレビュー欄に、ある書き込みを見つけました。「新型コロナのクラスターを発生させた中央大学運動部の学生さんたちが、マスクをせずにお喋りしています。(中略)好きなお店なのですが、しばらく行くのは控えます」。1か月前の書き込みです。以前記事にしたように、昨年7月筆者が通う中央大学運動部内でクラスターが発生しました。フィールドホッケー部に所属する筆者にとって、決して他人事とは思えない出来事でした。書き込みも同様です。
私たち学生の行動が飲食店に大きな迷惑を及ぼしたこと、運動部員への偏見が今も残っていることに心が痛みました。もちろんこれが事実ならば、マスクをせず会話をしていた学生は反省すべきです。誰かが「食事以外ではマスクを着けよう」と声を掛ければよかったのですから。その一方で、「運動部員はすべてコロナに感染している」という偏見を感じずにはいられませんでした。急に部活のジャージで外に出ることが怖くなりました。
日本医師会が昨年10月1日から12月25日まで医療従事者やその家族などを対象に実施した調査によると、47都道府県全医師会で698件の風評被害が確認されました。
具体的な事例では
「病院勤務をしていることを知られているため、近隣住民の目が気になり、自宅に帰ることができない」
「医療従事者の子どもというだけで、別室保育や、別室授業となる等の対応をされた他、登園や登校をしばらく控えるように要望されたりした」
など地域のなかで差別や偏見を経験した例が多く見られました。
このような医療従事者、感染者やエッセンシャルワーカーへの差別や偏見をなくし、安心して暮らせるようにとつくられた「シトラスリボンプロジェクト」をご存じでしょうか。愛媛県の有志団体「ちょびっと19+」が昨年4月に立ち上げた取り組みです。参加は簡単で、愛媛特産の柑橘をイメージしたシトラスカラー(黄緑やオレンジ)のリボンを身に着けたり、玄関などに飾ったりするだけでいいのです。それが医療従事者やその家族、感染した人への「ただいま」「おかえり」の気持ちを表現しています。安心して検査を受けられるようにという狙いも。几帳結びでつくる3つの輪は「地域、家庭、職場(学校)」を意味します。
筆者も作ってみました。慣れるまで15分ほどかかりましたが、1度コツを掴めば簡単です。目に見えるように、マスク紐につけるマスクチャームとピンバッジに作り変えました。
このプロジェクトの醍醐味は、気持ちの見える化です。「ただいま」「おかえり」と口に出さなくても伝わる手軽さを感じました。これまでのように気軽に会話することができず、誰もが差別や偏見の対象に見られる可能性がある今こそ必要なことです。賛同する自治体、市民団体や企業は全国に広まっています。リボンのあるところに思いやり、偏見を許さない雰囲気が生まれるはずです。対象は医療従事者や感染者ですが、そうでない人にとっても暮らしやすい地域づくりの一助となるでしょう。皆さんの帰る場所がシトラスリボンで溢れますように。
参考記事:
17日付朝日新聞夕刊(3版)6面「医療従事者へ差別事例698件」
17日付日本経済新聞夕刊(3版)11面「広がる黙食 配慮も必要」
18日付読売新聞朝刊(13版s)30面「コロナ#伝えたい 世代対立もったいない」
参考資料:
シトラスリボンの作り方が動画で紹介されています
日本医師会新型コロナウイルス感染症に関する風評被害の緊急調査(2021年2月3日)