今月6日、トランプ大統領の支持者が米連邦議会の前にひしめいた。「不正選挙が行われた」と主張する彼らは星条旗を振りかざし、警官を押しのけた。そして、窓ガラスを割って議会へ侵入していった。勝敗に関わる不正は確認されていないのに、「不正があった」と叫びながら。
このニュースを見た時、ある本の一節を思い出した。
自分が知りたくないことについては自主的に情報を遮断してしまっている(中略)これも一種の「バカの壁」です
累計発行部数440万部を超える平成の大ベストセラー『バカの壁』の一節だ。
解剖学者・養老孟司氏の『バカの壁』(新潮新書)。2021年1月25日撮影。
不正がないと証明されたにも関わらず、「不正はある」と主張する支持者。彼らには、知りたくないことを遮断する壁ができているのであろう、と思った。
一方で、日本はある空間に限り、米大統領選に関する「バカの壁」ができていた。
SNSの空間である。
24日付読売新聞によると、昨年の大統領選に関して、日本で大量拡散されたツイートのうち7割が「選挙不正があった」という内容であったという。勝敗に関わる不正はないと確認された後も同種の投稿は続いていた。
議会乱入のような事件こそ起きていないものの、SNS空間では知りたくない情報を遮断する壁が構築されていた。
SNSでは、偏った意見が拡散しやすく、真偽は二の次になる特性がある。まさに、「バカの壁」の育成に適した環境ともいえよう。米国の議会乱入もSNS上のフェイクニュースが導火線だった。SNS空間の言説が現実に飛び火するのはあっという間である。
ネット情報が身近な存在となった今日、「バカの壁」はあっという間に築かれる可能性がある。だからこそ、「知りたくない情報を遮断していないか」と謙虚に情報と向き合う姿勢が重要になってくる。
私自身、出所が定かではないネット情報を鵜呑みにしてしまう時がある。だからこそ、信頼のおけるメディアからの情報収集は意識的に行わなければならない。「バカの壁」で情報が遮断される前に。
参考記事:
24日付 読売新聞朝刊(大阪13版)1面「米大統領選で拡散 根拠なく「不正」投稿7割」
参考資料:
養老孟司『バカの壁』新潮新書、2003年