本日の朝日新聞朝刊「文化の窓」に「語り継ぐ 学校の怪談」という記事が掲載されていた。この記事には、民俗学者、文芸評論家等々の学校の怪談に対する考察が記されていた。
「学校の怪談」と聞いて思い出すのは1974年のオカルトブームである。この年は「ノストラダムスの大予言」、こっくりさん、スプーン曲げなどが若者を中心に大流行した。「オカルト元年」と言っても差し支えない時代であった。
当時の新聞記事を調べてみると、「神秘的なもの」に熱狂する若者たちの姿が浮かび上がってくる。
テレビや児童雑誌をまねた危険な“催眠遊び“(筆者註:こっくりさん)が小、中学校の生徒たちの間で流行、佐賀の中学校で、全生徒の四分の一にあたる約二百人が実験していて相当する生徒がフラフラになり、うち十八人が失神騒ぎに(74年6月25日読売新聞朝刊東京版19面)
テレパシー、霊感、超能力……、神秘的な世界を解脱した本がブームである。中、高校や大学には「超能力研究会」といったサークルが続々誕生、宗教書の売れ行きもめざましい(74年1月14日朝日新聞夕刊東京版8面)
これらの他にも、「給食のスプーンを曲げることに熱中する子どもたち」(74年5月26日朝日新聞夕刊東京版1面)など、超自然的なものに熱狂する若者の姿が描かれていた。
では、なぜ74年に若者を中心に神秘的なものが大流行したのか。要因の一つとしてオイルショックによる社会的混乱が挙げられる。前年の10月6日に始まった第4次中東戦争が引き起こしたオイルショックは、トイレットペーパー、合成洗剤、砂糖、小麦などの生活関連物資の買い占めなどのパニックを引き起こした。また、石油削減に伴い、ガソリンスタンドが休日営業を中止し、街からはネオンが消え、深夜テレビも自粛するなど、社会は非常事態さながらであった。
当時の社会的混乱は、若者たちに将来への不安を掻き立て、近代の合理主義の限界を印象付けさせた。そして、その反動で非合理的・神秘的なものへと惹かれていったのである。つまり、オカルトブームの背景には、若者の将来に対する不安があったのである。
NHK放送文化研究所の「日本人の意識調査」でもオイルショックを境に若者の神秘的なものに対する意識の変化が顕著に表れている。73年には、若者(16~29歳)の41%が「何も信じていない人」だったのに対して、78年には30%に減少した。つまり、「何かを信じている人」がオイルショックを境に、増加したのである。この他にも「霊的なものを信じている人」の割合も73年から78年で若者に限り急激な上昇がみられる。
今日に、話を戻そう。コロナ禍に襲われた日本は、オイルショックの比にならないほどの不安感に覆われている。感染者の増加、世界恐慌以来の経済危機など、さまざまな不安が頂点に達している。これらが若者にどのような影響を与えるのか、現時点ではわからない。しかし、現在の不安感が74年のオカルトブームのような熱狂に転じないとも限らない。「ウィズコロナ」の時代、経済や感染拡大だけでなく、若者の精神衛生にも目を向ける必要があるのではないだろうか。
参考記事:
20日付 朝日新聞朝刊(大阪13版)19面「語り継ぐ 学校の怪談」
参考資料:
島田裕巳『予言の日本史』NHK出版、2014年
NHK放送文化研究所『現代日本人の意識構造 第五版』日本放送出版協会、2000年