カリッとした歯応え、口の中でほのかに香る風味。一度食べたら忘れられない京都の銘菓「唐板」をご存知だろうか。実はこの「唐板」、新型コロナウイルスが列島を覆う今こそ学ぶべき由緒ある和菓子なのである。
その起源は今から1000年以上前の貞観5年(863年)、疫病が平安京を襲い、都が大混乱していた時代にさかのぼる。当時の疫病の脅威は今日の新型コロナウイルスの比ではなく、倒れる者は幾千の多きに達し、平安京は大混乱に陥った。まさに国家存亡の危機である。
この危機をどうにか乗り越えねば――。
そう考えた朝廷がとった疫病対策は御霊会を開くことであった。御霊会とは、政争に敗れた早良親王や橘逸勢などの怨霊を鎮め慰める祭りであり、疫病の流行即怨霊が引き起こした祟りと信じられていた当時としては、真っ当な疫病対策であった。
この御霊会であるが二つの側面があった。一つめは前述の通り、疫病の原因である(と信じられていた)怨霊を鎮め、感染拡大を防ぐ側面。もう一つが庶民の不安を払拭する側面である。
実は、冒頭の「唐板」、御霊会の際に庶民の不安を拭い去る一環として配られた疫病除け菓子「唐板煎餅」に起源がある。配布により庶民の不安が払拭されたとの記録はないが、今日まで疫病除けの菓子として御霊神社前で販売されていることを考えると、不安払拭には一役買ったのではないだろうか。
唐板を作り続ける水玉玉雲堂の水田千栄子さんによると、新型コロナウイルスで謂れを思い出した人が「ちょこちょこ」買いに来るそう。
さて、現代に話を戻そう。 11日に発表された民間調査会社「サーベイリサーチセンター」の調査結果によると、国民の92.1%が「日本で新型コロナウイルスが広まる不安」を感じているそうだ。つまり、国民のほとんどが不安感をもっているのである。では、このような状況に対して政府が策を講じているかというと否であろう。
社会に不安が蔓延すると些細なことがきっかけで社会が機能不全に陥る可能性がある。デマによるトイレットペーパーの買い占め、過度な自粛ムードなどは、その前兆のような気がする。不安によって引き起こされる機能ストップを阻止するためにも、これから政府には朝廷が「唐板煎餅」を配布したように、国民の不安を解消する政策を行なっていく必要があるのではないだろうか。
参考記事:
18日付 朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞朝刊 コロナウイルス関連記事