「来日をとても後悔している」。労働者への深刻な誤解

 「日本での仕事や生活は想像とはかけ離れていた。来日をとても後悔している」。こうまで言わせる外国人技能実習の現状に、心が痛みます。米国で白人低所得者の強い支持を受けた大統領が生まれようとしている今、もう一つの大国である中国の労働者はどんな暮らしをしているのか。現状を伝える2つの記事を紹介します。

 まず、その大統領選に関連する記事です。朝日新聞は、「トランプショック」と題した特集の一環として、中国・深圳の電子部品工場を取材しました。トランプ氏は選挙戦で、中国が米国の雇用を奪っていると批判しました。記事中には「アイフォーンは米国が考案したのに、中国が製造している。米国に雇用を戻すべきだ」という支持者の声が紹介されています。

 ところが、当のアイフォーン工場で働く労働者は冷ややかです。製造ラインで働いていた林可さんの基本給は、約3千元(4万8千円)。同工場では30数万人が働いています。携帯の持ち込みは禁止され、室内にエアコンもありません。「雇用が米国に移る心配があるか」という記者の質問に対して、「絶対に無理」、「私たちも精一杯。この条件で働ける米国人はいないと思う」と答えています。

 トランプ支持の低所得者からしてみれば、むなしい一人相撲です。調べてみると、国内格差を示すジニ係数は、中国で0.46。社会不安が起こりやすくなるといわれる0.4をはるかに超えています。雇用を取り戻すといっても、決して中国人がラクな仕事をしているわけではありませんでした。

 さて、今度は日本に関連して、もう一つ目についた記事があります。『歪んだ外国人実習』という連載が読売新聞上で始まりました。

 外国人技能実習制度の本音と建前が、赤裸々に伝えられています。冒頭に引用したのは、中国から長野県川上村にやってきた男性実習生の言葉です。厳しい仕事内容にもかかわらず手取りは期待通りでなく、来日前の稼ぎとほぼ同じです。以下はある女性が送り出し機関と交わした合意書ですが、読んで絶句しました。「外泊は直ちに強制帰国、違約金50万円」、「恋愛は警告。聞き入れない場合は違約金20万円」。他にも、日本人指導者の暴力行為について、訴えが相次いでいます。

 本日紹介した記事のどちらも、私たちが他国の労働環境について思い込みがちであることが見えました。低賃金で働く、もしくは働かせることのできる国民、という古い認識が根強く残っています。時間が解決する問題ではありません。後半に紹介した特集のように、広く伝えることから始まるのだと思います。

参考記事:
11月19日付 朝日新聞朝刊13版 13面『「米が雇用奪還」労働者は冷ややか』
11月19日付 読売新聞朝刊13版 35面『歪んだ外国人実習⑴ 外泊の「罰金」50万円』