「アルテミス2」打ち上げ 宇宙と地球の平和を祈る

「僕らが生まれてくる/ずっとずっと前にはもう/アポロ11号は月に行ったっていうのに」。今から26年前に発売されたポルノグラフィティの「アポロ」が私は好きで、この歌を聴くたびに、漠然と「月面着陸は遠い過去の話」と考えていました。しかし、いま、世界の目は半世紀ぶりに月に向けられています。米国主導の探査計画「アルテミス計画」で、米航空宇宙局(NASA)などの飛行士4人が乗る宇宙船「オリオン」が1日(日本時間2日)、米フロリダ州のケネディ宇宙センターから打ち上げられました。

人類を再び月に送るこの計画は、2017年のトランプ1次政権のもとで前身となる指令が出されました。22年に実施された無人の月周回試験飛行に続き、今回が二度目のミッションです。1960年代から70年代にかけて米国が進めたアポロ計画以来の挑戦となります。計画名の「アルテミス」はギリシャ神話の女神で、アポロ計画の由来となった太陽神アポロンとは双子の存在です。

アポロ計画は、冷戦下で生み出された、言うならば一種の代理戦争でした。1950~60年代の宇宙開発は、米国と旧ソ連が国の威信をかけ、資金を湯水のように注ぎ込んだ「大競争」であったことは、人類の輝かしい宇宙史の中でも、決して見落としてはなりません。今回のアルテミス計画とアポロ計画との違いは、「競争から協力へ」と言い表されています。米国を中心に世界各国が参加し、飛行士もかつてのように白人男性だけではなく、多様な性別や人種の飛行士が選ばれています。アポロ計画の二の舞にさせないという意識が伝わってきます。

しかし、世界が半世紀ぶりに月を開発する狙いは、より実利的で、競争的です。米国は月の「水資源」を目的に飛行士を送り込む方針を掲げ、新たな宇宙ステーション構想ではロシアと合意しました。欧州や中国も独自の計画を発表しています。特に、米中ロの国家間競争は過熱しており、1984年に発効した月の資源を国家や団体・個人が占有することを禁じる「月協定」も米中ロは批准していないなど、「協力のような競争」が起こりうる可能性は否めないでしょう。

さらに、今、国際情勢は緊迫しています。ウクライナや中東では戦争が長引き、米トランプ大統領の、時に突拍子もなく変化する発言や情勢は国際社会の不安を煽ります。国内も同様です。31日には、陸上自衛隊は、敵基地攻撃能力(反撃能力)を担う長射程ミサイルの配備を始めたばかりです。軍備拡大を続ける中国を念頭に、海自、空自でも同様の準備が進み緊張感が走っています。 地球上で平和を揺らがすような事態が起きているときに、宇宙開発はどうなるのでしょうか。

宇宙への挑戦がいかなる形の戦争にも影響することなく、悪用されることがないように祈るばかりです。

参考記事:

2026年4月2日 朝日新聞デジタル「アルテミス2打ち上げ、10日間の飛行開始 半世紀ぶり月に接近へ」
2022年12月24日 朝日新聞朝刊 3面「(サザエさんをさがして)月面探査 半世紀経て競争から協力へ」2019年7月18日 朝日新聞「人類初の月面着陸から50年、アポロ計画とは 犠牲者も」