今月の3日から京都南座で「曽根崎心中物語」が上演されていました。近松門左衛門の原作を下書きに誕生した曽根崎心中を、時代に合わせて新たに監修した演目です。話題の映画「国宝」を見てから実際に歌舞伎を鑑賞してみたいと思い、筆者も足を運びました。
京都・南座(3月11日筆者撮影)
曽根崎心中は、大阪で醤油を商う徳兵衛と遊女お初の一途な恋を描く歌舞伎の名作です。中村壱太郎さん、尾上右近さんが徳兵衛とお初を役替わりで演じました。また、今回は登場人物の感情に焦点を当てるべく新たな演出が加えられています。時代に合わせて手直しされた令和版曽根崎心中とも言える今作は、歌舞伎本来の雰囲気を堪能することはもちろん、初心者でも楽しめる仕様になっていました。
筆者自身、歌舞伎を鑑賞するのは今回が初めてでしたが、ストーリーを理解することができました。歌舞伎のテンポ感、和楽器による演出、圧倒される役者の技量など、実際に鑑賞したからこそ分かることが多くありました。
何より驚いたのは、劇場の空気感です。訪れるまではどこか敷居が高いように感じていましたが、想像以上に心地よい空間でした。演目のなかでは観客の笑いを誘う表現があったり、「大向こう」と呼ばれる観客が役者の屋号を呼び掛ける文化があったりと、演者と一体になる雰囲気がありました。また、幕内と呼ばれる幕と幕の間に、飲食をする風習も印象的です。筆者は会場内の売店でお菓子を購入し幕内を楽しみました。コンサート会場など飲食を禁止としている施設も少なくないため、馴染みのない文化に驚きましたが、心躍る経験でした。幕内が終わると、「曽根崎心中物語」では出演者によるトークセッションが待っています。最後には撮影可能な時間もあり、現代風な取り組みだと感じました。
幕内の休憩(3月11日筆者撮影)
大阪や京都を中心とした上方歌舞伎の本拠劇場である大阪松竹座の閉館が5月に迫っています。時代とともに在り方が問われる伝統芸能ですが、「曽根崎心中物語」は新たな歌舞伎の歩みを体現していると感じる画期的な公演でした。歌舞伎は決して近寄りがたいものではなく、長年愛され続けている大衆文化だと実感しています。伝統芸能の魅力を知った一人として、これからの歌舞伎の未来が明るいことを願うばかりです。
生まれも育ちも京都の筆者ですが、南座に訪れたのは今回が初めてでした。身近な場所にもまだまだ知らない世界が広がっているのだと強く思います。あらたにすの活動では、社会の広さや自らの無知と向き合うことばかりでした。今回の記事を最後に活動を終了しますが、これまで以上に知ることに貪欲であれるよう今後も精進できればと思っています。拙いコラムだったかと思いますが、ご愛読いただきありがとうございました。
参考記事:
2013年2月9日付 日本経済新聞デジタル「歌舞伎の掛け声「大向こう」、飛び入りしていい?」
2月12日付 読売新聞夕刊「[伝統文化 歌舞伎]京都・南座「曽根崎心中物語」 役替わり 新演出で魅了」
3月14日付 朝日新聞朝刊「「国宝」10冠 日本アカデミー賞」
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