東日本大震災から15年【前編】 大川小学校津波裁判「なぜ、あの悲劇が起こったのか」

今月11日、東日本大震災発生から15年の節目を迎えます。震災発生時の記憶がない児童や学生が増えるなか、震災によって浮き彫りとなった問題をどう乗り越え、尊い犠牲への思いをどのように継承していくのかが、課題となっています。

筆者は2月7日、大川小学校津波訴訟の様子を描いたドキュメンタリー映画『生きる 大川小学校 津波裁判を闘った人たち』の上映会に出席しました。人権弁護士の養成と交流の場づくりを目指す、弁護士らによるNPO法人「九州アドボカシーセンター」が企画した集いです。弁護団長を務めた吉岡和弘弁護士と原告遺族の只野英昭さん、本作品を監督した寺田和弘さんによるトークセッションが行われました。

本稿は前後編に分かれます。前編では、大川小学校の被災と震災発生後の行政の対応についてお届けします。

 

■2011年3月11日 大川小学校の被災

大川小学校で起こった悲劇について、知らない、もしくはすでに記憶にないという人は少なくないでしょう。初めに、事件の概要を振り返ります。

2011年3月11日に発生した東日本大震災で、宮城県石巻市立大川小学校は津波にのまれ、全校児童の7割に相当する74人の児童と10人の教職員が犠牲・行方不明となりました。当時学校にいた児童・職員のうち、生き残ったのはわずか5人でした

大川小は海から約3.7キロも内陸に位置し、校舎裏には津波が到達しない高さの山があります。避難に必要な時間も確保できる状況でした。しかし、児童と教職員は校庭に約50分間とどまり、津波到達の直前になって避難を開始。結果として間に合いませんでした。震災当時、大川小よりも強い揺れや大きな津波に見舞われた学校はほかにもありましたが、これほどの犠牲を出した学校はありません。救えたはずの命でした。

なぜ大川小でこのような悲劇が起こってしまったのか。その理由は、危機管理の不備にあります。当時の大川小には「災害対応マニュアル」があり、一部に津波に関する記述もありました。しかし、津波を想定した避難行動や3次避難場所(今回の災害においては、集合した校庭の次に向かう避難場所)の検討はなされていませんでした。さらに、保護者への児童引渡しに関する情報共有や、 津波を想定した避難訓練は行われていません。2階建ての校舎で垂直避難による安全確保が見込めなかったことも、悲劇の要因の一つだと考えられます。

 

■震災発生後の行政の対応と、事実を明らかにするための裁判

震災発生直後、石巻市全体の被害が甚大だったこともあり、市教育委員会は大川小の被害状況を把握しきれていませんでした。それにより、行方不明者の捜索や被災当時不在だった校長の現地入りは遅れをとりました。

市教委による事後対応の不備は、これにとどまりません。生き残った児童への聞き取りの際に、本来なら必要であるはずの心的外傷に関する専門家の支援や保護者との調整・合意、丁寧な記録保存がほとんどありませんでした。後に、保護者への説明で根拠の不明確な報告がされたことや、聞き取りメモの破棄が発覚しています。

さらに遺族・保護者を対象とした説明会において、当時の石巻市長が「自然災害における宿命」という表現を使ったことがありました。この発言に対し、事故検証委員会は不用意かつ不適切だったとしています。

事実が一向に明らかにならないうえ、遺族の心情への配慮がみられないことから、子を失った親たちは学校や行政に対する不満を募らせました。わが子が犠牲になった時の様子を知りたいと思った遺族らは、国家賠償請求裁判で県や市と闘う道を選択しました。

 

後編では、大川小学校津波裁判の様子や、吉岡弁護士が感じた国家賠償請求訴訟への疑問についてお届けします。10日ごろ、投稿予定です。

 

参考記事:

・2025年8月28日 朝日新聞デジタル 災害時に命救うのは「行動」 宮城・大川小遺族「本気で取り組んで」

https://digital.asahi.com/articles/AST8W4D3LT8WUBNB008M.html

・2025年7月8日 朝日新聞デジタル 津波で児童ら犠牲の大川小「遺族たちの闘い知って」 青森で映画上映

https://digital.asahi.com/articles/AST774HSKT77UBNB002M.html

・2025年3月16日付 読売新聞オンライン 補修進まぬ大川小校舎を恒久保存へ、遺族らが募金活動開始…「劣化していく姿は遺族を悲しませる」https://www.yomiuri.co.jp/shinsai311/news/20250316-OYT1T50026/

 

参考資料:

・ 特定非営利活動法人九州アドボカシーセンター 「2026年2月7日(土)映画「生きる」上映会開催、大川小学校津波裁判弁護団長 吉岡和弘弁護士のトークセッションも同時開催」

https://advocacy-center.com/news/2026%e5%b9%b42%e6%9c%887%e6%97%a5%ef%bc%88%e5%9c%9f%ef%bc%89%e6%98%a0%e7%94%bb%e3%80%8c%e7%94%9f%e3%81%8d%e3%82%8b%e3%80%8d%e4%b8%8a%e6%98%a0%e4%bc%9a%e9%96%8b%e5%82%ac%e3%80%81%e5%a4%a7%e5%b7%9d/

・大川小学校事故検証委員会 「大川小学校事故検証報告書」

https://www.city.ishinomaki.lg.jp/cont/20101800/8425/01.pdf