韓国ではなぜ地方紙が弱いのか

日本では地方紙の存在感が非常に大きいです。たとえば京都では京都新聞の購読率が高く、地域密着の記事を好む読者も多く見られます。一方、韓国では地方紙の影響力は小さく、全国紙中心の構造が続いています。なぜ韓国では地方紙が普及しなかったのでしょうか。

 

―1980年の軍部政権による言論統廃合

大きな要因として、1980年に全斗煥(チョン・ドゥファン)政権が行った「言論統廃合」が挙げられます。これは政権にとって障害となり得るメディアを整理し、統制するための政策でした。

これにより、地方紙は10紙に統合されました。それまでの新聞社28社は14社、放送局29社は3社、通信社7社は1社に再編されています。さらにこの過程で1000人以上のメディア関係者が解雇されました。

加えて1980年12月には「言論基本法」が制定され、言論の公的責任が強調されました。政府は「責任を果たしていない」と判断した定期刊行物の登録を停止できるようになり、零細な地方新聞社の多くが廃業へと追い込まれました。

この結果、地域ごとに多様な新聞が競争するという構造が崩れ、中央集権的なメディア構造が形成されました。

 

―広告依存型の収益構造

では、言論の自由が保障された現代においても、なぜ地方紙は復活できなかったのでしょうか。その理由は新聞の収益構造にあると考えられます。

韓国では、紙の新聞を購読する比率が著しく低いのです。韓国政府の「言論受容者意識調査」によると、紙の新聞の購読率は1993年の63.0%が2017年には9.9%まで低下しました。特に、20代から30代までの購読者数の少なさが顕著です。1980年代後半から90年代に生まれた世代はニュースをインターネットで得ることが当たり前で、紙面に接する機会は少ないとされています。韓国外国語大学のキム・チュンシク教授は「成人期に経験するメディア環境は生涯のメディア利用習慣に影響する」と指摘しています。

一方で、「新聞産業実態調査」によると、新聞事業者のうち紙面を持たずオンラインのみで発信する「インターネット新聞」の割合は2020年代に入ると44.1%に達しました。

紙の購読者が少ない韓国では、新聞社の収益の中心は広告です。2024年には広告収入が売上の64.6%を占め、購読料収入は11.4%にとどまりました。

このような広告依存型の構造では、読者に直接支えられる地域密着型の地方紙は成立しにくくなります。結果として、全国規模で広告を集められる大手メディアやオンライン媒体との競争において、地方紙は不利な立場に置かれ続けています。

 

日本では購読料を基盤とする地域密着モデルが維持されたのに対し、韓国では政治的統制とデジタル化の早期進行によって中央集権型のメディア構造が固定化されました。その結果、地方紙が成長する余地が生まれなかったと考えられます。

 

参考文献

韓国記者協会、2018年3月27日、「購読率9.9%と紙新聞の生存戦略」、http://m.journalist.or.kr/m/m_article.html?no=43811(最終閲覧日2026年2月21日).

韓国言論振興財団、「2025新聞産業実態調査」https://www.kpf.or.kr/synap/skin/doc.html?fn=1768789404120.pdf&rs=/synap/result/research/(最終閲覧日2026年2月21日).

田中則広、「韓国におけるメディア所有規制の緩和」https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2009_11/091106.pdf(最終閲覧日2026年2月19日).

中央日報、2010年1月8日「【社説】国は言論統廃合の被害救済措置を取れ」

https://japanese.joins.com/JArticle/124859(最終閲覧日2026年2月19日).

聯合ニュース、2010年1月7日「全斗煥新軍部が政権掌握狙い言論統廃合、真実和解委」https://jp.yna.co.kr/view/AJP20100107002200882最終閲覧日(2026年2月19日)

우리역사넷、「1980年言論統廃合」https://contents.history.go.kr/mobile/kc/view.do?levelId=kc_i500400(最終閲覧日2026年2月19日).