再審法制度は結局どう変化するの? 現行法の改正は「正しい道」を示すのか

刑事裁判をやり直す再審制度が、ついに見直しへと向かいます。法務省は12日の法制審の答申を受け、国会に刑事訴訟法の再審関連条項を改正する法案を提出することになりました。これが成立すれば、法律が制定された1948年以来、初めて再審の仕組みが変わります。

相次ぐ冤罪事件の発覚により高まった見直しの議論ですが、冤罪被害者の救済に尽力する弁護士や支援者らは法制審の答申にもとづく改正案について、無罪につながる証拠が埋もれる恐れや救済の遅れへの懸念を語っています。本改正案は、冤罪被害者を救うための正しい道を示すことができるのでしょうか。

 

■再審制度とは

再審制度とは、確定した有罪判決に事実認定の誤りがある場合などに刑事裁判をやり直す手続です。ここ近年、機械メーカー「大川原化工機」の関係者や、福井女子中学生殺人事件の犯人とされた男性らの冤罪が明らかになりました。

今回の再審法改正は、死刑が確定していた袴田巌さんが2024年9月に再審無罪となったことがきっかけです。袴田さんは、死刑が確定した1980年の翌年から裁判のやり直しを求めていました。2014年に静岡地裁で再審開始の決定が出されたことから、袴田さんは釈放されました。

袴田さんの冤罪をめぐる主な動き

1966年 静岡県一家4人殺害事件の発生

1980年 死刑確定(最高裁)

1981年 再審請求開始

2014年 再審開始決定(静岡地裁、第2次再審請求)

    袴田さん釈放

    検察即時抗告、いわゆる「検察による不服申し立て

2018年 再審開始取り消し(東京高裁)

2020年 高裁に差し戻し(最高裁)

2023年 再審開始決定(東京高裁)

2024年 再審無罪(静岡地裁)

(参考:2024年10月9日付 朝日新聞(西部) 朝刊25面 「無罪 たどり着いた」)

しかし、この再審開始決定に対し検察は「検察即時抗告」つまり不服を申し立てました。これにより14年の再審開始決定は取り消され、あらためて再審開始の決定が下されるまで9年もの年月を要しました。検察の申し立てがなければ、再審公判はより早期に開始されて決着していた可能性が高いのです。

再審法制度の見直しについて、法務省はもともと後ろ向きでした。冤罪事件が立て続けに明らかになったことから、裁判所や検察に対する批判的な世論が広がりを見せ、見直しをせざるを得ない状況に追い込まれました。

 

■再審法制の改正における論点

再審法改正における主な論点は、以下の4つです。

①スクリーニング

再審請求を選別すること。再審請求を受けた裁判所は速やかに調査を行い、明らかに再審請求理由のない請求などは棄却しなければならない。この選別を通過した事件のみ、証拠開示など事実の取調べをすることができる。現行法には規定なし。

②証拠開示

刑事事件で警察が集めた証拠は、検察が受け継ぐ。この証拠について、検察が開示義務を負う範囲を限定する。裁判所が「再審請求理由との関連性の程度」や「再審開始の可否を判断するうえでの必要性」、「開示に伴う弊害の内容と程度」などに照らして相当と認めた場合のみ、検察に対して開示命令を出す。現行法には規定なし。

③目的外使用の禁止

検察が開示した証拠について、目的外使用を罰則付きで禁止する。メディアや支援者などにそのまま公開することも禁止。現行法には規定なし。

④不服申し立て

再審開始決定に対する検察の不服申し立てを認める。地裁が再審開始を決定しても、検察は高裁への即時抗告や、最高裁への特別抗告ができる。現状でも認められている。

法制審による改正案は、スクリーニング手続きの新設を盛り込んでいます。この段階では証拠開示が許されないため、すでに明らかになっている証拠のみで判断されます。この制度が導入されれば、審理が必要な請求まで門前払いとなる恐れが生じます。

再審請求審における証拠開示に関しては、現行法に規定がありませんでした。証拠を出すよう検察に促すかは、裁判所の裁量にゆだねられていますし、検察側がこれに応じる義務もありません。したがって、証拠開示に関する規定が明文化されること自体は一定の進歩だといえるでしょう。しかし、要件における「関連性」が問題です。非常に狭い解釈も可能で、無罪につながる証拠が日の目を見ない恐れを残しているのです。

さらに検察が開示した証拠の目的外使用を禁ずることにも、問題が含まれています。

通常の刑事裁判にも同様の規定がありますが、こうした裁判では傍聴が認められているため、開示された証拠を報道機関や支援者らが閲覧できます。しかし、再審請求審は非公開です。取材・報道の実質的制限につながり、国民の知る権利が阻害される恐れがあります。

現行法では、裁判所による再審開始決定に対して検察が不服を申し立てることが可能ですが、これにも疑問があります。そもそも再審開始には「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠」が必要です。その高いハードルを越えて、再審を始めるとの決定がなされたならば、検察は不服申し立てで抵抗するのでなく、再審の場で事実を争うべきなのではないでしょうか。

 

■今後の流れ

法務省は法案の作成を急ぎ、4月の閣議決定と国会提出をめざしています。その後、法改正の実現には2段階の承認を得る必要があります。1つ目は、政府が法案を提出する前に与党の了承を得る「与党審査」です。2つ目は、6月ごろに始まる「国会審議」です。この2つの関門を、法案の修正なしに通過するかは不透明です。今後の議論についても、注視していかなければなりません。

 

◾︎再審法制度の「改正」へ

冤罪事件は、被害の救済までに気の遠くなる年月がかかります。菊池事件や飯塚事件など、被疑者が亡くなってしまったあとに遺族や弁護団が無実の証明のために尽力している事件もあります。

冤罪が疑われている鹿児島県で発生した大崎事件は、再審開始を認める判断が3回出たものの検察側が不服申し立てをしたことにより、いずれも開始決定は取り消されています。弁護団らは1月8日、5度目の再審開始請求を鹿児島地裁に申し立てました。服役した原口アヤ子さんは、現在98歳です。検察による不服申し立てがなければ、迅速に再審が行われていた可能性があると考えると、彼女の奪われた時間に胸が苦しくなります。

失われた命と時間は戻ってきません。検察と裁判所には、より慎重で正確な捜査と審理が強く求められています。権力機関が犯してしまった過ちに向き合うための制度へと「改正」されることを望みます。

 

参考記事:

・2026年2月13日付 読売新聞オンライン 「再審制度に証拠開示義務化を答申、目的外使用には罰則…開始決定への検察官の不服申し立ては禁止せず」

https://www.yomiuri.co.jp/national/20260212-GYT1T00344/

・2026年2月3日付 朝日新聞(西部) 朝刊1面 「再審制度 初の見直しへ」

・2026年2月3日付 朝日新聞(西部) 朝刊33面 「『冤罪被害に背向けた改悪』 弁護士ら、国会での修正訴え」

・2026年1月17日付 朝日新聞(西部) 朝刊31面 「証拠 公開禁止は『取材制限』」

・2026年1月4日付 朝日新聞(西部) 朝刊25面 「再審 証拠開示『関連性』が焦点」

・2025年10月13日付 朝日新聞(西部) 朝刊9面 「記者解説 再審制度見直し 救済早く」

・2025年2月27日付 朝日新聞(西部) 朝刊30面 「大崎事件 再審認めず」

・2024年10月9日付 朝日新聞(西部) 朝刊25面 「無罪 たどり着いた」

・2026年1月8日付 南日本新聞デジタル 「『大崎事件』5度目の再審請求 請求人は原口アヤ子さん(98)長女 鹿児島地裁」

https://373news.com/news/local/detail/226880

 

参考資料:

・日本弁護士連合会 「「福井女子中学生殺人事件」再審無罪判決に関する会長声明」

https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2025/250718.html

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