文化財の修繕、災害対策は厳しさを増す 清水寺執事・森清顕氏に聞く【前編】

2025年の漢字は「熊」でした。筆者が通う大学から5kmほど離れた京都・嵐山でも、熊の目撃情報が相次いでいます。年の瀬になると墨痕鮮やかに今年の漢字が書きあげられる舞台としても有名なのが清水寺です。今回は清水寺執事の森清顕氏にお会いする機会がありました。取材をお願いしたところ快諾いただき、お寺の修繕について伺いました。


清水寺執事の森清顕氏
2026年1月10日筆者撮影

森 清顕(もり・せいげん)
1976年京都市生まれ。清水寺執事。立正大大学院修了、博士(文学)。父は今年の漢字で知られる清水寺貫主 森清範氏。

現在の清水寺本堂は1633年に建立された建物であるため、解体修理や修復作業が欠かせません。舞台板の張り替えは15年から20年に一度、屋根替えは40年から50年に一度のスパンでやってきます。その度に数十億円規模の資金を要します。

清水寺は国の重要文化財に指定されているため、国から最大50 %の補助が出ますが、50億円の工事では25億円もの金額を自前で用意しなければなりません。現在は、拝観料やお賽銭、運用益、お守りやお札などの売上で対応していますが、決して余裕のある状況ではないといいます。

荘園収入(年貢や小物など)でお寺の経済基盤がしっかりと成り立っていた頃は、金銭の心配をすることなく、運営できました。しかし、明治時代になると、廃仏毀釈の影響を受けたこともあり、お寺は自ら収益を得る必要が生じました。

資金繰りに苦心していた明治時代、寺に伝わる書物を国へ売却し修繕費用に充てたこともありました。「清水寺縁起絵巻」はその一例です。この絵巻は「清水寺の歴史を知る上で重要な書物だ」と森さんは語ります。掛け替えのない資料を手放さなければならかったほどの資金難であったとは、想像を絶します。

清水寺縁起絵巻とは
清水寺の始まりと本尊千手観音にかかわる物語を描いた作品。全3巻で構成。巻中には、平安時代に東国を平定した坂上田村麻呂が清水寺を建て、本尊十一面観音と地蔵菩薩、毘沙門天像を奉納する場面などが描かれている。現在、東京国立博物館(東京都台東区)に所蔵。

清水寺本堂

資金面の困難に加えて、材料の調達難にも直面しています。仮に解体修理や建て替えが必要となった場合、数十本もの欅(けやき)の巨木を見つけなければなりません。指定文化財に登録されているため、材料は建造当時のもので賄うことが求められているのです。清水寺の建設にあたっては欅が使われ、当然ながら国産材でした。このため、調達先を海外に求めて輸入材に頼るということは許されません。しかし、材料が手に入らなければ修繕は不可能であるため、伝統をどのように守っていくか課題です。

関西国際空港を浸水させた平成30年の台風21号では、境内のおよそ5か所で土砂崩れが発生し、寺は大きな被害を受けました。土砂崩れを未然に防ごうと補強したくても、開発に当たるため法律では認められません。

そのような中、新技術を投入しています。地形や建築物に手を加えずに災害時の被害を最小限に抑えるには、災害の発生を事前に予測する技術が求められます。裏山の斜面3か所にセンサーを埋め込み、雨量から土砂崩れの危険性を予測できるようにしています。しかし、予測はできても文化財を守るための根本的な対策は講じられないため、人命を守ることしかできません。

過去の景観を守りながら、今後やってくる災害に備えることは難しいのです。現在の法律では建設当初の状況を維持することに主眼が置かれていますが、災害が増え、材料調達が厳しくなった昨今、修繕に関する法律のあり方を考え直さなければならない時期が来ています。

 

次回は、お寺のDX(デジタルトランスフォーメーション)を中心にお伝えします。

 

参考記事
2025年12月12日、朝日新聞デジタル、「今年の漢字は「熊」、動物は2字目 トップ10や過去30年分も紹介」
2017年3月21日、日経電子版、「土砂崩れから清水寺守れ 立命大、斜面にセンサー(関西サイエンスマガジン)」

参考サイト
清水寺公式サイト
文化遺産オンライン