筆者は大学の国際人材養成プログラムの一環で、大分県を訪れました。冬といえば温泉。日本三大温泉のひとつ別府を訪れたことから温泉文化について考えました。国の文化審議会は11月28日、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の無形文化遺産の提案候補として、温泉文化を選んだばかりです。
大分空港では、温泉を楽しむハローキティが出迎えてくれます。手荷物と一緒にベルトコンベアでキティのフィギュアが流れ、足湯やトイレの壁にもキャラが彩られていました。
ハローキティが温泉に浸かっている
大分ハローキティ空港到着ロビー(大分県国東市)
2025年12月13日筆者撮影
大分の温泉は稀有な存在です。源泉総数は5,086箇所、湧出量は毎分29万1,121リットルで、とともに全国1位です。別府市内の温泉湧出量は毎分約10万リットルと、アメリカ・イエローストーン国立公園に次ぐ世界2位を誇ります。湯量が豊富なことから源泉掛け流しが当たり前で、加温もしていません。
入浴料が100円から250円ほどの施設も数多く、他の地域と比べても割安です。温泉の供給が安定しているため、多くの銭湯や共同浴場でこの価格帯が実現できるのです。旅館の中には、ランチを利用した場合、入浴が無料となる取り組みも見られました。
一方で、別府市中心部から20kmほど離れた由布院温泉では、住民を対象とした共同温泉が整備されているのを見かけました。無料で利用でき、温泉を日常的に活かしていることが分かります。
地域住民を対象とした共同温泉(大分県由布市)
2025年12月14日筆者撮影
別府周辺では古くから営業する温泉も多数あります。その多くで湯船が地下にあるのが特徴的です。源泉は地下から湧き出しますが、間欠泉など噴き上げる力が強いものを除き、地面より上に噴き上がることはありません。
ポンプがなかった時代に浴槽に湯を張るには、地面より下に噴き出し口をつくる必要がありました。そのため、温泉を引く場合も温泉管を少し傾かせて、うまく流れるような作りになっています。
半地下式浴場 湯船は路面より低い
浜田温泉資料館(大分県別府市)
2025年12月13日筆者撮影
最近では機械でくみ上げることが多く、温泉でない一般的な風呂をつくる家庭も増えています。このため、地下式の浴槽は少なくなってきました。古くからある温泉は、昨今のバリアフリー化の普及の波も受け、減少しつつあるのです。
半地下にある浴槽は知られざる温泉文化です。昔ながらの文化を守ることは重要ですが、同時にお年寄りや障害のある人にも使いやすいようバリアフリー化への対応も大切で、伝統と便利さのどちらを優先するか葛藤が生じています。
さて、筆者は寝ながら温泉を楽める砂湯を初めて体験しました。浴衣を着て砂の上に横たわり、スタッフの方に温泉で暖められた砂をかけてもらいます。全身が砂に覆われるため、砂の圧力で簡単には身動きを取ることができませんが、その分血流を促進してくれます。老廃物を排出してくれることから、デトックス効果もあるということです。
歴史ある佇まいの竹瓦温泉
半地下式の浴場を持つ(大分県別府市)
2025年12月14日筆者撮影
マレーシア・クアラルンプールから来た観光客の男性は、「砂湯に入りたくて初めて日本を訪れた」と話していました。レンタカーを借り、熊本、大分、福岡と九州各地の温泉に入ることを目標に来たそうです。筆者が砂湯を利用した時間帯では、8人中4人が海外からの観光客でした。温泉も日本の魅力のひとつとなっています。
参考記事
日本経済新聞電子版、2025年11月6日、『大分ハローキティ空港、26年3月まで継続 県とサンリオが連携強化』
読売新聞オンライン、2025年11月29日、『候補に「温泉」県内沸く 訪日客獲得へ「大歓迎」 ユネスコ無形遺産』
参考資料



