デジタル時代に選ばれる紙媒体 人との繋がり生むZINEとは

スマートフォンをはじめ多様なデジタルメディアが普及した今、紙を主体としていたメディアは軒並み厳しい状況下にあります。新聞離れや出版不況という言葉を耳にする機会も少なくありません。そんな中で、紙媒体として盛り上がりを見せているのがZINE(ジン)です。11月には東京都内で「文学フリマ」や「ZINEフェス」と呼ばれる即売会が開催されました。

 

まずジンは一体どのような媒体なのでしょうか。「マガジン(magazine)」の語尾を取った造語からZINE(ジン)と呼ばれ、一般的に「商業的に利益をあげることを第一義としない少部数発行の自主出版」とされています。これまでのフリーペーパー、ミニコミ、同人誌、リトルプレスなど様々な媒体との明確な区別がないこともあり、メディアとしての意味合いや取り扱うテーマは多種多様です。出版物や冊子といっても、印刷した1枚の紙から製本物まで形態に決まりもありません。

 

ジン文化は、アメリカやイギリスで育まれました。日本では、アメリカの影響を受けながら独自の文化を形成しています。自主出版物の名称として90年代以降ジンの名が流行しました。2000年代に入るとさらに浸透し、現在のブームに至ります。

 

ミニコミや同人誌と差別化しようとアートと紐付けて紹介されることもあるようですが、それはジン文化の一部に過ぎないと言われています。明確な定義がなく、幅広いジャンルの表現の場になり得る点が特徴だと考えられます。

 

筆者自身、文章をまとめたジンを制作したり友人が制作したジンを購入したりと、身近に感じた体験があります。そこではデジタル上の発信とは違う魅力を実感しました。手軽なデジタル上でなく、紙媒体として情報を発信することは手間のかかる作業だともいえます。一方、自分で綴った文章が形に残ることはとても心が躍り、手こずった作業でさえ楽しかったことをよく覚えています。また、友人が制作したジンは、大型書店に並ぶ本とは異なります。身近な友人の新たな姿が垣間見られたように感じました。

 

ジンが流行した背景には、スマートフォンやSNSといったデジタルメディアの普及が関係しています。インターネットを日常的に利用できるSNS 隆盛のデジタル時代だからこそ、ジンの意義や面白さが広く理解されるようになったのです。モノとして人の手から手へ渡る感覚は、紙媒体ならでは。データでなくモノとして存在するから伝えられることや、むやみに拡散することなく届く範囲を限定できること、作り手と読み手が親密な関係を築けることなどジンならではの強みが際立つようになりました。今の環境だからこそ選ばれる紙媒体、それがジンなのかもしれません。

 

 

参考記事

2025年12月11日付 日本経済新聞朝刊「熱い自己表現、交流促す 自主製作冊子「ZINE」脚光 ニッチな分野 深掘り 即売会や専門店も(ハッシュタグ)」

 

参考資料:

趙男「日本におけるジン・カルチャーの起源と変容――女性のメディア創出から考えるジンの重要性」(『同志社グローバル・スタディーズ』12号、2022年)

西川麦子 「現代のコミュニケーション・ツールとしてのZINE――顔が見える他者を引き寄せるメディア」

野中モモ「声を出す練習――日本のZINEの(再)発見(すばるスペシャル(3)平成と文学)」(『すばる』41号、2019年)

野中モモ「ZINE という選択肢――個人と個人をつなぐ小さなメディア」(『立命館言語文化研究』33号、2022年)