PFASってどんな物質?  健康や環境を脅かす水とは

先日、ドキュメンタリー作品「ウナイ 透明な闇」を観ました。PFAS(ピーファス)汚染に抵抗する女性たちを描いた本作は、世界中で健康や環境に影響を及ぼしているPFASの実態を映しています。日本国内においては、米軍基地周辺をはじめ、各地で基準値を上回る濃度が検出されています。

 

◾︎PFASとは

PFASは有機フッ素化合物の総称です。国際的に統一された定義はありませんが、1万種類以上の物質が含まれます。撥水・撥油性に優れ、熱や汚れに対する耐性が強いことから衣類や靴、調理器具などのコーティングに幅広く利用されてきました。半導体用の反射防止剤や電子機器の製造、泡消化剤などにも活用され、産業分野においても重要な役割を果たしています。

 

◾︎PFASによる健康被害と環境汚染

生活や産業活動に欠かせないPFASの規制が進む理由は、非常に安定した性質にあります。自然界でほとんど分解されないため、人体や生物の体内に蓄積します。さらに水に溶けやすいため、地下水や水道水などに流出することもあります。こうした特性から健康や環境への影響が度々指摘されてきました。発がん性や肥満、出生児の体重低下などのリスクが指摘されていますが、因果関係ははっきりとしていません。

米国では、1980年ごろからPFASによる健康被害への懸念が生じ、90年代には製造工場周辺の住民からの訴訟が相次ぎました。ウェストバージニア州では、多くの住民に下血や腎臓がんなどの健康被害が発生しています。その後、規制が世界的に広がり、ストックホルム条約ではPFAS に属するPFOSやPFOA、PFHxSの製造および使用が禁止されました。EU域内では、より広範な種類のPFASが規制対象となっています。

 

◾︎沖縄における被害

沖縄県は16年、米軍嘉手納基地周辺の約45万人に水を供給する上水道や河川からPFASが検出されたと発表しました。20年4月には、同基地からPFASを含む泡消化剤の流出事故が発生しました。

PFASによる汚染の予防や調査では、日米地位協定が壁となっています。米軍の円滑な行動を確保するために認められている特権のひとつに、米軍基地の排他的管理権(第3条)があります。これにより、米軍の許可なく基地に立ち入ることはできません。PFASのような有害物質の排出源を調査することが目的であったとしても、例外ではありません。米軍が環境事故の発生を認めない限り、日本側の基地への立ち入りが認められる可能性はほとんどないのです。

さらにPFAS対策には多額の費用が必要で、沖縄県は年間10億円を負担しています。負担増が続けば、水道料金の引き上げなど県民の負担が増えることになりかねません。

 

◾︎沖縄だけではないPFAS汚染

PFASによる健康・環境被害は世界中で確認されており、中には日本企業が加害側に立った事案も発生しています。イタリア北東部ベネト州では13年、PFASによる大規模な水質汚染が発覚しました。汚染された水を飲むなどして影響を受けた住民は、35万人に及ぶと推計されています。原因企業である化学品メーカー「ミテニ」は、09年に別の企業に売却されるまで三菱商事の関連会社でした。現地の地方裁判所は、当時取締役などを務めていた日本人らに拘禁刑を言い渡し、有罪の被告や三菱商事などに対し損害賠償を支払うよう命じました。

岡山県吉備中央町の上水道では23年、高濃度のPFASが検出されていたことが明らかになりました。町は翌年、公費による周辺住民ら約700人の血液検査を実施。PFOA血中濃度の中央値は、地区外の住民よりも50倍以上高い結果となりました。

航空自衛隊芦屋基地(福岡県芦屋町)や米海兵隊岩国航空基地(山口県岩国市)の周辺では、国の基準値を上回るPFASが検出されました。台湾の半導体企業TSMCが進出した熊本県でもPFASの濃度上昇が確認されました。健康被害は確認されていませんが、住民には不安が広がっています。

 

◾︎公害被害を無くすために

公害被害は、現在も国内外で発生しています。私たちの身体の約60%を占める水が、世界中で汚染されているのです。4大公害病を経験した日本で、同様の過ちを繰り返してよいはずがありません。

有害物質による健康被害は因果関係の証明が難しく、汚染者に補償を求めることは困難を極めます。さらに、失われた健康や生命が戻ることはありません。だからこそ、厳格な排出基準値の設定や予防措置の義務化を進め、汚染自体を予防することが欠かせません。

 

 

参考記事:

・2025年11月21日付 日経電子版 「沖縄県にのしかかるPFAS対策費、年10億円 国は設備更新支援に難色」

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC140F10U5A111C2000000/

・2025年8月19日付 朝日新聞デジタル 「PFASと闘う女性たち撮った 沖縄の監督、ドキュメンタリーに」

https://digital.asahi.com/articles/DA3S16284561.html

・2025年6月17日付 読売新聞オンライン 「PFAS流出、日本人3人に禁錮11~16年判決…一時は三菱商事子会社だった伊の化学メーカー」

https://www.yomiuri.co.jp/world/20250627-OYT1T50174/

・2025年6月27日付 朝日新聞デジタル 「PFAS汚染訴えてきたイタリアの母たち 『三菱商事は態度改めて』」

https://digital.asahi.com/articles/AST6V7K55T6VUHBI005M.html

・2025年6月27日付 朝日新聞デジタル 「イタリアPFAS汚染、日本人に拘禁刑16年 三菱商事の元関連会社」

https://digital.asahi.com/articles/AST6V5J2KT6VUHBI028M.html

・2025年5月23日付 読売新聞オンライン 「米軍岩国基地周辺で『PFAS』基準超過…北側にある山口県岩国市の遊水池、住民団体が水質調査し2回連続」

https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20250523-OYTNT50049/

・2025年5月23日 朝日新聞デジタル 「PFAS、空自芦屋基地周辺の井戸2カ所でも基準値超え」

https://digital.asahi.com/articles/AST5Q465VT5QTIPE004M.html

・2025年4月9日付 朝日新聞デジタル 「PFAS上昇『因果関係』の説明に食い違い TSMC進出後の河川水」

https://digital.asahi.com/articles/AST484VSRT48TLVB003M.html

・2025年3月17日 朝日新聞デジタル 「(時時刻刻)PFAS汚染、消えない不安 米国・ドイツ・日本」

https://digital.asahi.com/articles/DA3S16171586.html

・2024年2月5日付 朝日新聞デジタル 「米軍基地周辺のPFAS汚染 国内対策追われる米国、日本で対応鈍く」

https://digital.asahi.com/articles/ASS2551J3RCZTPOB00H.html

 

参考資料:

・「ウナイ 透明な闇」HP

https://unai-pfas.jp/

・環境省HP 「よくある質問 PFASとは何か」

https://www.env.go.jp/water/pfas/faq001.html

・環境省HP 「よくある質問 PFOS等は発がん性物質なのか」

https://www.env.go.jp/water/pfas/faq009.html

・日経XTECH 「PFAS規制の強化で半導体業界から悲鳴、代替品や無害化技術が急務」

https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/02705/031800040/

・朝日新聞SDGs ACTION 「PFASとは? 人体への影響や日本の水道水の安全性、各国の取り組みを紹介」

https://www.asahi.com/sdgs/article/15581048

・朝日新聞GLOBE+ 「『米軍ファースト』の日米地位協定 地下水汚染疑惑や性暴力事件で国民を守る足かせに」

https://globe.asahi.com/article/14976682

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