韓国の大学修学能力試験の当日の風景

11月13日、韓国では全国一斉に大学修学能力試験(以下、修能)が実施されました。この日は、後輩が朝早くから試験会場の前で先輩を応援したり、警察のパトカーが遅刻しそうな受験生を送ったり、出勤時間を遅らせる制度が導入されたりします。では、このような修能文化を、実際の韓国の大学生はどのように感じているのでしょうか。筆者の経験も踏まえ、韓国の大学生に話を聞きました。

 

韓国の入試制度について

韓国の大学入試制度は大きく二つに分かれます。高校の成績や内申書、大学が独自に実施する論述試験などで評価する「随時典型」と、修能の成績で合否が決まる「定時典型」です。随時典型は定時典型よりも早い時期に行われるため、修能前に進学先が決まる学生も少なくありません。しかし、随時典型でも大学によっては修能の最低点数が課されるため、より上位の大学を目指して修能まで受験勉強を続ける学生も少なくありません。

今回インタビューに応じてくれた安興宰(アン・フンジェ)さん(23)と朴書煇(パク・ソフィ)さん(23)は、2019年に随時典型で既に大学に合格していたといいます。しかし、修能の最低点数が必要だったため、二人とも修能を受験しました。

 

先輩を応援する後輩たち

韓国では修能当日、試験会場となる学校の前で後輩が先輩を応援する伝統があります。筆者も高校2年生の時、朝5時に学校へ行き、友人たちと応援した記憶があります。しかし、実際には「先輩を心から応援したい」という気持ちだけで参加している学生は必ずしも多くありません。

安さんは高校2年生のとき学級副委員長で、先生から「応援に行くように」と指示され、深夜2時に集合して準備をしたといいます。事情があれば断ることも可能でしたが、特に断る理由がなく参加したそうです。一方、朴さんは応援に参加するとボランティアとして認められ、内申点がもらえるという利点があったため参加したそうです。

このように、修能当日の応援風景は「学校側が後輩を集めている」ことによって成り立っている側面が強いと言えます。

 

後輩の応援は負担になる?

では、熾烈な入試競争が続く韓国で、後輩の応援は受験生のプレッシャーになるのでしょうか。

安さんによれば、「人によって違うと思います。応援を受けて明るく入っていく先輩もいれば、視線を下に向けて走って入っていく先輩もいました」。朴さんは「隣の高校の生徒たちは応援歌まで準備してきて、正直うるさかったです」と話し、「私たちは受験の邪魔にならないよう、静かにチョコレートを配っていました」と振り返りました。

 

出勤時間まで調整される修能の日

韓国の通信社・聯合ニュースによると、釜山市では交通・輸送支援、騒音防止、医療支援など、分野別に総合的な対策が実施され、当日は公共機関、金融機関、研究機関、50人以上の企業の出勤時間を午前10時に調整します。

また、バスや地下鉄の運行本数を増やし、混雑地域には非常輸送用車両66台を配置し、遅刻しそうな受験生や身体の不自由な受験生を無料で輸送します。英語のリスニング時間には、消防車のサイレンを自粛させ、騒音の可能性がある貨物車は迂回させます。

こうした対策は、日本から見ると「大げさ」に映るかもしれません。国家がここまで試験のために動くことは、むしろ学生の負担になるのではないでしょうか。

安さんは「人生で非常に重要な試験なので、色々と工夫してくれるのはありがたいことです」と語り、国家的な対策が負担になるかという問いには「負担だと思ったことはありません。むしろ感謝しています」と述べました。

朴さんも「プレッシャーを感じたことはありません。修能の日は国民全体が力を合わせて応援してくれているようで、心強いです」と話しました。

 

大学進学が「当たり前」になった社会で

韓国の大学進学率は2024年で73.6%と、日本の大学進学率59.1%より格段に高くなっています。大学進学が当然視される社会では入試の重要度も高まります。その中で学生自身は、この大規模な支援体制を「当たり前」と捉え、国家が試験のために動くことに負担を感じることは少ないのが実態です。

 

キム・ソンホ、聯合ニュース、2025年11月11日、「釜山市、修能の総合支援対策…公共機関午前10時まで出勤」https://www.yna.co.kr/view/AKR20251111019800051?input=1195m(最終閲覧日2025年11月21日).

国家総合指標体系(index.go.kr)、2025年11月3日、「就学率及び進学率」、https://www.index.go.kr/unity/potal/main/EachDtlPageDetail.do?idx_cd=1520(最終閲覧日2025年11月21日).

文部科学省、2024年12月18日、「令和6年度学校基本調査 確定値について」、https://www.mext.go.jp/content/20241213-mxt_chousa01-000037551_01.pdf(最終閲覧日2025年11月21日).