京都市南区九条の東松ノ木団地には、多くの在日コリアンの方々が暮らしています。11月12日、団地の管理事務所で3人の在日コリアンの方々に、通名(日本名)を使い始めた経緯やその思いを伺いました。
―通名の由来
82年に来日した月金順子(本名・金順娘〈キム・ジュンナン〉)さん(83)は、韓国・安東市(アンドンシ)の出身です。結婚を機に大邱(テグ)へ移り、その後、夫とともに日本へ渡りました。韓国では家の出身地を姓の前に付ける習慣があり、彼女の家紋は「月城(ウォルソン)金氏」だったことから、日本では「月金」という名字を名乗るようになったそうです。
―通名を使い始めた理由
月金さんが通名を使い始めたのは、「本名を言っても日本の人に読んでもらえず、聞き取ってもらえなかったから」だといいます。
一方、大阪で生まれ育った高島芳子(本名・高芳子〈コ・バンジャ〉)さん(92)は、学校で本名を名乗るといじめられたため、通名を使わざるを得なかったと話します。
当時は「にんにく臭い」「朝鮮に帰れ」といった言葉を浴びせられ、店では「朝鮮人に売るお米はない」と言われることもあったそうです。
―本名を使う機会
高島さんは「大人になってから差別は減った」と話します。しかし、「在日コリアンだとわざわざ言わなければ気づかれないので、本名を言おうとは思わなかった」といいます。日本では本名の漢字を読める人が少なく、生活のうえでは通名のほうが便利だったそうです。
―二つの名前への思い
取材した方々はいずれも、本名と通名のどちらも自分の名前だと感じており、「どちらが良いとは思わない」と話していました。ただ、在日コリアン同士でも通名で紹介し合うことが多く、本名を名乗る機会はほとんどないといいます。
―国籍を変えなかった理由
在日2世の西山光子(本名・金光子〈キム・グァンジャ〉)さん(78)は、「両親の国籍を大切にしたい」という思いから、長く朝鮮籍のままでいたそうです。しかし、差別や手続きの煩雑さを避けるため、日本国籍に切り替える人も少なくありません。
「新婚旅行のとき、朝鮮籍だと手続きがとても大変で、海外に行くのも苦労しました」と振り返ります。西山さんの娘たちは日本国籍を取得しており、高島さんの孫も朝鮮籍は嫌だと言って切り替えたと話しました。
―差別の今
高島さんは「今は差別を感じることはほとんどない」と語ります。近年、韓国料理やK-POPなどを通じて韓国文化を楽しむ人が増えたことが、偏見を和らげているのではないかと感じているそうです。