先日、都内に住む祖母から久々に連絡がありました。「詐欺電話がかかってきた」と話す祖母に、特殊詐欺の実態を聞きました。
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6月中旬、午前10時頃。 祖母(82)のもとに突然、1本の電話があった。NTTドコモのインフォメーションセンターを名乗る電話だ。至って自然な女性の声だった。
「ああ、あそこね」と思った。契約などで分からないことがあると、いつも電話で問い合わせていた。馴染みのある問い合わせ先だと思った。
「〇〇さん、最近電話番号を増やしましたか?」と話を切り出された。覚えがない、知らないと答えた。
犯罪に巻き込まれている。こちらから警察に連絡すると告げられた。「繋いだままお待ちください」と言われ、数分経つと、都内の中央署で勤務しているという警察官に変わった。
警察官を名乗る男性から、事件の詳細を説明された。
実はある事件を調べている。容疑者を極秘逮捕し、家宅捜索をしたら、祖母名義の貯金通帳とスマートフォンが見つかった。あなたも犯罪に加担している。逮捕したい。そういった内容だった。
「ドキッとした」。説明を受けている最中は、まさか騙されているとは思わなかった。犯罪に巻き込まれていることに、びっくりした。
覚えはない、知らないと訴えた。しかし「証拠はちゃんとある。本来なら逮捕して留置場に入れられる」と脅された。
「貯金通帳から〇〇さんが400万円を受け取っていることが分かった」とも言われた。それなら直接話がしたい、警察署に行くと申し出ると、「いい、いい」と流された。
途中から男性は「あなたのご様子から、悪いことをしそうはない。困っているようだから、助けましょう」と味方についてくれるようになった。
男性から、検事とも話をしてほしいと言われた。「上の立場のひとだから、妙に抗ったり、疑問を投げかけたりしないでくれ」と事前に忠告された。電話をかけたまましばらく待っていると、検察庁の検事を名乗る別の男性が現れた。
検事からも事件の説明を受けた。「あなたの担当(警察官)はあなたを弁護しているようだが、私は厳しい」という。
「弁護」という言葉から、裁判沙汰になるのではないかと不安になった。「弁護士に頼むことはできるのか」と問いかけると、「家庭裁判所の人に変わる」と言われた。
機械的な女性の声が聞こえてきた。普通の人間の声ではなかった。聞き取ることができなかった。「おかしい」と思い始めたが、確信には至らなかった。
再び警察官と話をすることになった。「警察署の中でもヤクザに関係している警察官がいる。今回の件は極秘で捜査している。あなたも極秘にしていてほしい、何か聞きたいことがあれば自分に電話をかけてほしい」と言われ、電話番号を控えた。
今の世の中、何があってもおかしくない。そういうこともあるのかと、思ってしまった。
30、40分ほど話したあと、最後に「在宅起訴で取り調べたい。あなたが家にいることを証明してほしいから、朝9時頃に1回、夕方18時頃に1回電話をしてほしい」と指示され、電話は切られた。
その晩、祖母は電話をしなかった。用事があり、家を空けていたからだ。「極秘だから周りには言えない」と思っていたが、唯一、防犯協会に入会している友人にだけ、相談の連絡を入れた。
翌日友人から電話があった。「典型的な詐欺だ。私から警察に届けておく」と、友人が警察に繋いでくれた。警察からも電話があり、留守番電話を設定すること、念には念を入れて戸締りをするように警告された。
すぐに留守番電話を設定した。数日間は電話が鳴ったが、メッセージを残す前に全て切られた。3日ほど経つと、連絡はパタッとなくなった。
直接的な被害はなかった。しかし話の流れで、個人的な話を随分してしまった。主人が亡くなっていること。子どもも全員自立していて、一緒には暮らしていないこと。普段どんなボランティア活動に参加していて、いつ家を空けているのかなど。家宅捜索と言われ「住所も話してしまったかも」と肩を落とした。
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祖母は「数か月経ってやっと笑って話せるが、当時は怖い思いをした」と話します。子どもには「話すと怒られるかも」と思い、しばらくは打ち明けられなかったそうです。特殊詐欺から身を守るためには、犯罪に逢わない予防と、社会的な繋がりが欠かせません。
東京都は2016年度から、都民が自動通話録音機を目的として購入する際の費用の一部を補助する取り組みを区市町村を通じて始めています。東京都財務局の事業評価書によると、自動通話録音機を入れた世帯で、特殊詐欺被害に遭った例はほとんどなく、設置を促進することで、これから起こり得る被害を未然に防ぐ効果が認められています。現在も都内の多くの自治体は、自動通話録音機を無料で貸し出しています。
録音機など技術的な対策に加え、特殊詐欺の電話に出てしまったときに、気軽に相談できる相手がいるような、社会的な繋がりも予防には欠かせません。被害者が詐欺に遭ったことを恥じ、口を閉ざすことがないようにするためには、責任を被害者個人に押し付けるのではなく、安心して助けを求めることができる社会の仕組みを保ち続けなければならないと強く思います。
参考資料
東京都財務局 「自動通話録音機設置促進事業(都民安全推進本部)」
東京都生活文化局 「都民安全総合対策本部における補助金等の支出状況」