自民党総裁選挙は党員からの支持を多く得た高市氏が小泉氏との決選投票を制して終わった。総裁就任直後の記者会見では、自公連立を最優先にする立場を明かし、消費減税などの経済政策や靖国神社参拝についてはトーンを落とした。21日にも召集される臨時国会で史上初の女性首相の誕生がほぼ確実視されていたが、連立協議は難航。政治とカネの問題で溝が埋まらず、10日の自公党首会談で協議は決裂。99年から約26年続いた自公連立の体制は終わりを迎えることとなった。
業を煮やした公明党
連立協議の難航は当初、党やその後ろ盾である創価学会の不満を和らげるガス抜き的側面があると見られていた。しかし、公明党の意志は想像以上に固かった。公明党の元市議は次のように語る。
「もともと私は自民党との選挙協力は不本意ながらやってきた。市議の時は協力して条例案を通したりしたけど、国政は別。防衛装備移転の法案などへの賛成で平和の党という理念を捨てたと思われて公明を見限った人も多いと思う。(政治とカネの問題などに触れ)最近の自民党議員は自分のことしか考えてないのが腑に落ちない。」
積年の自民側の振る舞いについに支持層が爆発し、それを学会側も抑えられなくなったのだろう。特に公明党と折り合いの悪い麻生氏の復権や、幹事長代行に不記載問題を過去に抱えた萩生田氏を起用したことが決定打になったか。
解党的出直しはいばらの道
ただ、当然この決断には双方にデメリットが伴う。まずは自民側だが、若手を中心に地盤に不安のある議員が一定数は落選するという見方が出ている。公明との選挙協力は票数以外にも、婦人会を動員したボランティアなどドブ板戦略にも欠かせない存在だったはずだ。そうした人員、アドバンテージを全国的に失うこととなる。そしてそれは公明側も同じだ。特に党役員が比例重複で出ない衆院小選挙区などでは斉藤代表も含めて当落線上となることが見込まれる。そこでは人材が十分に育っていない現状をどうするかなどの問題がつきまとう。まさしく茨の道である。
湧き上がる首班指名の問題
公明党は連立を離れ、首班指名で「斉藤鉄夫」と書く方針だ。合わせて220あった自公票は、自民単独では196まで減ってしまう。
この状況をチャンスと捉えたのが野党だ。196票であれば、立国維の3党が合意すれば計210と上回れる計算だ。特に立憲民主の幹事長である安住氏は精力的に他党と交渉しており、野田代表に限らず野党で統一候補を出せないかと模索している。政界に大きな連立を作ろうとする姿に往年の小沢一郎氏を重ねた方もいるのではないだろうか。
狭まる玉木氏への包囲網
立民側は国民民主の玉木氏を統一候補として提案した。共に連合を母体とする両党は今年の4月に基本政策で合意を交わしている。玉木氏は「安保などの重要政策での合意が重要」と慎重姿勢を崩してないが、有力な候補の一人であることは間違いない。
昨年の首班指名では「玉木雄一郎」と書き、自らも今年のインタビューで総理への意欲を隠さない。その玉木氏がもしも自分の名前を書かなければ、これまでの言動との整合性という点で政界内からも支持者からも批判を浴びるのは必至だ。包囲網は狭まりつつある。
誰が選ばれても早期解散か
その玉木氏は4月のインタビューで、自らが総理になれば早期解散すると公言している。また、高市氏にも事情がある。昨年の衆院選で失った自らの支持層でもある旧安倍派の復権を期したいはずだ。支持層が少ない今の高市氏には基盤の薄さが透けて見える。基盤が薄いがために人事で論功行賞の色を出さざるを得なかったと筆者は読んでいる。
ただ、参院選後に続く政治空白はまもなく3ヶ月を迎える。その間も物価高が収束する兆しは見通せず、国民の政治不信は高まるばかりだ。おそらく解散は秋の補正予算を成立させた直後か、税制の話が出てくる12月〜1月頃だと筆者は読むがいかがか。
最も悪い選択は政治空白のさらなる拡大である。予算案で折り合いがつかずに10月後半あるいは11月の早い段階での解散に踏み切る可能性も大いに考えられる。政治空白はさらに延びることになる。その場合、決められない政治のツケを払わされるのは国民であることを重々承知して頂きたい。