外国人問題 安倍元首相が残した言葉

自民党総裁選は佳境を迎えた。先頭を小泉氏が走り、その後ろを高市氏と林氏が追う構図となっている。いずれの候補も過半数の票を得る見込みは薄く、上位2名による決選投票になることが予想される。

立会演説会での演説分析を見ると、外国人問題が論点に浮かび上がっているのが分かる。 その急先鋒である高市早苗氏は、半分近い時間を割いていた。演説会では、出身である奈良県の名物である鹿への暴行を外国人の問題に結びつけて論議を呼んだ。安倍晋三元首相の後継者としての呼び声も高く、右派色の強い雑誌「正論」の11月号の「私の考える救国内閣」という企画でも、大勢の論客が高市氏を推している。

他の候補についても、多くが外国人問題を取り上げているが、自民党が絶大な権勢を誇った安倍政権の政策への批判や反省がどこからも聞かれないことに、違和感を覚える。なぜなら外国人の受け入れを進めたのが、安倍氏に他ならないからだ。

各候補から「ルールを守らない方への厳正な対応を」(高市氏)「外国人問題に関する司令塔機能を強化し、総合的な対策を進めていく」(小泉進次郎氏)といった主張は聞かれたが、ならば2019年の改正出入国管理法の施行時から安倍政権はそうした懸念への対応を怠っていたということなのか。そうであるならば、安倍政権こそが今の外国人問題の原因を作ったことになるが、いまだに党内での安倍人気は根強いこともあり、候補者の歯切れは悪い。

2018年の12月、改正出入国管理法が成立した2日後に開かれた記者会見で安倍氏は次のように述べている。

「出入国管理法の改正案が成立しました。全国的な人手不足の中、優秀な外国人材の皆さんにもっと日本で活躍していただくためにこの制度は必要であります。直ちに、しっかりとした運用体制を構築してまいります。

今回の制度は移民政策ではないかという懸念について、私はいわゆる移民政策ではないと申し上げてきました。受け入れる人数には明確に上限を設けます。そして、期間を限定します。皆様が心配されているような、いわゆる移民政策ではありません」(首相官邸HPより)

法案は強行採決で成立にこぎつけた。この改正を受けた日経新聞は「従来認めていなかった単純労働分野への受け入れに道を開く政策転換となる。」と評する。その杜撰さは当時から指摘され、ジャーナリストの田原総一朗氏は日経ビジネスの『入管法改正、「何も決めずに強行採決」の波紋 官邸と法務省は責任を押しつけ合う』と題した記事において、政権の無責任さを痛烈に批判している。

その安倍氏はかつてこのような言葉を残している。

「一部の国、そしてまた民族や文化を排除しようという、あるいは憎悪をあおるような過激な言動は、これは極めて残念であり、決してあってはならないと強く感じたところでございますし、まさにこれは日本国民また日本国の品格に関わることであろうと、このように思うところでございます。」

外国人問題を声高に論ずる人々にこの言葉が届く日は来るだろうか。

参考記事

NHK 9月22日配信 【演説全文】高市早苗氏 自民党総裁選挙 https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10014929501000

同 【演説分析】自民総裁選 候補者は立会演説会で何を訴えた https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10014927581000

日本経済新聞 2018年12月8日配信 外国人受け入れ拡大、19年4月から改正入管法が未明に成立 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38706310Y8A201C1MM0000/

日経ビジネス 田原総一朗 2018年12月14日配信 入管法改正、「何も決めずに強行採決」の波紋 官邸と法務省は責任を押しつけ合うhttps://business.nikkei.com/atcl/opinion/16/122000032/121200099/

首相官邸 平成30年12月20日 安倍内閣総理大臣記者会見https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2018/1210kaiken.html