「口コミ」で広がる感動の輪

先日、二十歳の集いに参加し、小学校時代の同級生との久々の再会に話の花を咲かせ、「この人たちとはもう15年の付き合いになるのか」と時の流れを感じていました。皆さんの中には、「まだ二十歳だろ、これからだ」と思われるかたもいらっしゃるかも知れませんが、私たちが出会ったのはアナログ放送が終了し、地上デジタル放送が始まったような時代です。そう言われてみると驚きませんか。今やテレビも古いと言われ、インターネットが覇権を握るようになりました。今回は、ある例からデジタル時代を考えてみたいと思います。

 

皆さんは、昨年11月に公開され「X」を中心とした「口コミ」によって話題となった映画をご存じでしょうか。タイトルは「トリツカレ男」、2001年に出版されたいしいしんじさんの同名小説を原作とし、公開までに数年の月日を要し、一枚一枚手書きで描かれたミュージカルアニメーション映画です

 

公開以前、この作品に対する世間の期待はあまり高いものではありませんでした。筆者自身もアニメーション映画は「子ども向け」というイメージがあり、映画館に足を運んでまでは観ないかなと思っていました。そう思いながらも、一度番組で聴いた劇中の楽曲が頭から離れませんでした。これはもう観に行くしかないと思い立ち、映画館へと向かいました。

 

どうして映画館で観ることを悩んでいたのか疑問に思うくらい、晴れ晴れとした気持ちになりました。もちろん鑑賞を決めたきっかけであった歌は言うまでもありませんでしたが、アニメーションだけど大人向けであったうえ、これまでにはない展開に、新しい世界と出会ったような感覚があって、誰かにすすめたくなるような作品でした。

 

このようないい意味での裏切りを受けたのはどうやら筆者だけではなかったらしく、公開から日が経つにつれトリツカレ男ブームが起こってきたのです。このブームで大きな役割を果たしたのが「X」でした。「涙腺崩壊」「心があったかくなる」といった感想が数多くポストされ、それが新たな観客を生むことにつながったようです。

 

こういった泣けるという感想が多かったことで、オリジナルハンカチ付き上映というユニークな企画も生まれています。その後も、感動の輪は広がりを見せ、追加上映を決めた劇場が出たり、満員の劇場が増えたりと公開から約3か月がたとうとしている現在でも続いています。

 

もしこの作品が公開されたのが、15年前だったとしたら、きっとここまで大きな反響を呼ぶことはなかっただろうと思います。対面でのコミュニケーションの機会は少なくなっているのは事実でしょう。ですが、今回のように顔も名前もわからない誰かの感動が、別の誰かを映画館へと向かわせ、より多くの人たちがこの作品に出会う、そんなきっかけにもなるのです。

 

時間の流れとともに様々な変化が起こっていきます。それが良いのか悪いのか、一概に決められません。ですが、人々の思いという変わらないものと「X」という新たなものが組み合わさることによって、感動が広がっていくように、よりよい循環を生むことはあるのかもしれません。

 

参考資料

「トリツカレ男」公式ホームページ

https://toritsukareotoko-movie.com/